イーマイト処理を施したアルミニウム素材。左から、CL、SH、UH
イーマイト処理を施したアルミニウム素材。左から、CL、SH、UH
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幅3.8m×深さ3.2mの処理槽。大型ガラス基板を使う液晶パネル製造装置のステージなどを処理できる
幅3.8m×深さ3.2mの処理槽。大型ガラス基板を使う液晶パネル製造装置のステージなどを処理できる
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無電解メッキ処理やアルマイト処理を施すライン
無電解メッキ処理やアルマイト処理を施すライン
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熊防メタル 技術課 課長の馬場知幸氏
熊防メタル 技術課 課長の馬場知幸氏
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 「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 熊本編で今回取り上げているのは、メッキ処理やアルマイト処理などの表面処理を得意とする熊防メタルである。前編は、熊防メタルが表面処理技術を培ってきた背景やその技術を生かした今後の展開を探り、中小企業が技術力を糧に脱皮を図る姿に迫った。後編は、ビッカース硬さが高いアルマイト膜を得られる表面処理、静電気の発生を抑制するアルマイト処理や表面加工など、同社が顧客拡大を狙う表面処理技術を紹介する。

鉄やステンレス鋼よりも硬い

 熊防メタルが今、一押しとするのは、硬質アルマイト膜を得る表面処理技術「イーマイト処理」である。硬質アルマイトは一般にビッカース硬さが300前後なのに対し、イーマイト処理では最もビッカース硬さを稼げる仕様で600程度を得られる。しかもアルマイト膜にはクラックが入っておらず、耐腐食性も高いとする。

 仕様にもよるが、イーマイト膜は鉄やステンレス鋼よりも硬い。そのため、今まで鉄材を使っていたところにイーマイト処理を施したアルミニウム材を使えるようになるという。アルミニウム材は軽量なのが魅力だが、柔らかいために鉄を使わざるを得なかったところは多々あるとみる。そうした用途に、イーマイト処理を向ける。イーマイト処理による硬質アルマイト膜の膜厚は15~25μm(ビッカース硬さ600の仕様の場合)。アルミニウム材の表面にこの膜を設けることで、強度的にも耐えられる用途はあるとする。

 高機能アルマイト膜の活用先や試作依頼は半導体や液晶パネルの製造装置向けが多いが、ロボットや産業機械向けも増えてきた。自動車向けの案件もあるという。アルミニウム材を使って軽量化を図りたい潜在顧客層は広いとみる。

自動車向け部品で高い関心

 イーマイト処理は3種類ある。硬さを優先したUH、ジュラルミン素材に使えるSH、硬さは従来並みだがクラックのないCLだ。それぞれの特徴を見ていく。

 まず、イーマイトUH処理は、冒頭で紹介したビッカース硬さ600を得られるのが特徴である。イーマイトUH処理への問い合わせは多いとする。例えば、自動車向け部品。2011年に自動車の軽量化に向けた展示会に出展したところ、来場者の注目度が高かったとする。展示会では、薄いアルミニウム板の表面にイーマイトUH処理を施したものを使い、曲げようとしても曲がらないことを披露して硬さをアピールした。さらに、硬さだけでなく、耐摩耗性が71DS/mgで耐電圧が58.7V/cmといずれも高いことから、電子部品への引き合いもあるという。

 硬さの理由はアルマイトの材質、つまりAl2O3のセル形状にある。イーマイトUH処理で得た硬質アルマイト膜を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、Al2O3セルは従来の硬質アルマイト膜に比べて3倍程度と大きく、しっかり詰まっているのが分かるという。Al2O3セルのポーラス皮膜と呼ばれる部分の割合が多く、セルの中央部にあるポアの割合が小さい。これにより、硬度と耐電圧をいずれも高められると説明する。アルマイト処理を施す浴槽の薬液や処理温度、陽極酸化条件(10cm×10cm当たり何アンペア流すかなど)を最適化することで実現した。