山口県山陽小野田市は、日本初のセメント会社となった小野田セメント(現、太平洋セメント)の発祥の地。いまでも同市には、太平洋セメントグループをはじめ、窯業、化学、石油関連などの重化学工業などが多く立地している。ただ、経済環境が変化する中、かつて企業が取得した工業用地の利用が進まず、遊休地になっている例もある。

サッカー場のすぐ横に立地

図1●サッカー場とも隣接し、市民の目に入りやすい(出所:日経BP)
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 市街地から徒歩で約30分の海岸沿いにもそんな区域があった。太平洋セメントが所有する約16haの工業用地だ。だが、いまでは一面に太陽光パネルが敷き詰められ、着々と工事が進んでいる。2013年11月末には、出力約13MWに達するメガソーラーが稼働する予定だ。メガソーラーとなる区域は、「東沖ファクトリーパーク」と呼ばれる工業用地の一部になる。同パークの内陸側には緑地公園があり、ドングリを実らせる照葉樹林が植えられている。公園内にはテニスコートやサッカー場などのレクリエーション施設もある。また、道を隔てて、ショッピングセンターもある。緑地公園の緩やかに高くなった林を散策すると、木々の間から一面に広がった太陽光パネルを垣間見ることができる。メガソーラーは、一般人の目に付きにくい場所にあることが多い。そんななか、東沖ファクトリーパークのメガソーラーは、市民にとって身近な立地が大きな特徴になっている。

 太平洋セメントから土地を借り、メガソーラー事業を経営するのは、三井不動産だ。山陽小野田市の遊休地を有効に活用したいと考えていた太平洋セメントから相談を持ちかけられ、メガソーラー事業を提案した経緯がある。

 企業不動産(Corporate Real Estate:CRE)の有効活用策を練ることを「CRE戦略」と呼び、企業経営の大きな課題になっている。大手不動産会社は、デベロッパーとして企業のCRE戦略をサポートしており、立地に応じて様々な活用策(ソリューション)を用意している。メガソーラーもその1つだ。「メガソーラー事業自体を目的に全国展開するつもりはない。商業施設を経営する『ららぽーと事業』などと並ぶ、CER戦略の新たなソリューションの1つという位置付けだ」と、三井不動産・ビルディング事業企画部事業企画グループ統括の山内啓氏は言う。こうした背景から、メガソーラーのための事業会社を設立せず、三井不動産が直接、手掛けることにした。投資費用に関しても、事業自体への融資を金融機関に要請する「プロジェクトファイナンス」の手法は採用しなかった。「地主の目線に立ち、三井不動産が人的にも資金的も責任を持ってメガソーラー事業に取り組むことで、土地所有者である企業に安心感を持ってもらいたい」(山内氏)という狙いがある。