「徳島だから」という発想から始まった放熱基板

 新規事業の製品の特徴について、個別に見ていこう。

 放熱基板は、黒鉛や炭素繊維といった炭素素材の粉体および繊維を、抄紙技術と加工技術によって湿式で形成した炭素複合シートである。阿波製紙は、「CARMIX」シリーズと呼ぶ。見た目は黒っぽい厚紙といったところだ。

CARMIXの外観。後方にある波型の物体は、CARMIXを折り曲げて形成した放熱基板の例
CARMIXの外観。後方にある波型の物体は、CARMIXを折り曲げて形成した放熱基板の例

 LED照明器具に使った事例では、当初、30cm×40cmで重さ5.2kgのアルミニウム基板を放熱基板として使っていたのに対し、CARMIXを使うことで1.8kgに軽量化できたという。強度を確保するためにCARMIXによる放熱基板の周囲に金属の補強材を設けたのだが、この1.8kgは補強材を含めた重さである。

 これだけの軽量化効果があるので、高所に取り付けて水銀灯の代替として用いる大出力のLED照明器具での利用を想定する。大出力のLED照明器具は投入電力が100Wクラスとなるので、消費電力が低いとされるLEDでも発熱量は大きくなりがちで、必然的にヒートシンクも大きく重くなる。高所に取り付けるとなると落下防止のための補強も必要となる。こうした課題を、CARMIXで解決できるとする。国内や韓国で納入事例があり、台湾向けでは少量だが最近売り上げが立つようになった。

 CARMIXの開発は2008年に着手した。徳島県内のLEDの研究会にて、県内企業の特徴を生かしたLED製品を開発することになったのがきっかけである。徳島には世界的なLEDメーカーである日亜化学工業があり、LEDを軸にした新産業創出の取り組みが盛んであり、その一環といえる。

 LEDを照明に使おうとすると、放熱材料が必要である。高出力になるほど、大きく、かつ重くなる。ここを軽量化する需要は大きいと考えに至った。阿波製紙が強みとする“紙”は、軽いのが利点。そこで放熱性を高めた機能紙の開発に取り組んだ。当初からアルミニウム基板の置き換えを狙っていたので、黒鉛や炭素繊維、SiCといった熱伝導率の高い材料を6~7種類を試したという。同社はグラファイトを取り扱った経験があるので、熱伝導率の高いシートを作製するのは慣れていたとする。

 なお、シートの作製は、熱伝導率の高い材料と、こうした材料を結び付ける化学繊維を水中に分散させ、抄紙技術でシート状に凝集させて得る。水にこれらの物質を均一に分散させて、シートにする際にも均一に水を抜いていく技術がカギを握っており、このノウハウが阿波製紙に蓄積されているとする。

軽さがLED照明器具の差異につながるはず

 今のところ、放熱に向けたCARMIXは厚さが異なる4品種と、引っ張り強度を高めた1品種の合計5品種を用意している。厚さの異なる品種は、薄い品種で80μm、厚い品種で240μmしかない。熱伝導率は、面方向でそれぞれ53W/(m・K)と64 W/(m・K)である。熱放射率は0.6~0.7ある。これらはシート状のまま使うだけでなく、折り紙のように山折りと谷折りを繰り返して蛇腹状にするなど、様々な形状に加工して利用することもできる。

 引っ張り強度を高めた品種は、紙の弱点である強度面と耐水面を強化した。他の4品種と異なり、成型用の樹脂を加えたことで、プレス加工に対応できるようにした。引っ張り強度は40MPa(N/15mm)を確保した。この品種は、「強度が弱い」「水に弱い」といった “紙”から来るネガティブなイメージを払拭するために開発したものである。

 “軽さ”に対し、国内だけでなく、中国や台湾、韓国などの想定顧客の評価は高いという。昨今、LEDモジュールは複数のメーカーから高出力品を入手でき、さほど経験がなくても電子回路を組めればLED照明器具が出来上がってしまう。そうなると、メーカー間のLED照明器具を差異化しにくい。それはLED照明器具メーカー自身、特に数多くのメーカーがひしめく中国をはじめとする海外メーカーが強い危機感を抱いており、競合と差異化できる特徴を欲している状況だ。阿波製紙によると、差異化ポイントとして紙を使った軽量化が注目されているという。