100のアイデアから五つを厳選


 こうした開発と同時に、ゲーム・ソフトの開発も進めた。担当者は佐々木勇人である。トイレッツ用ゲームを開発する上で困難だったのは、表示する広告とゲームのバランスを取ること。ゲーム内に広告を載せるため、両者は画面内のスペースを取り合う関係にある。ゲームが目立ち過ぎれば、ユーザーに広告を見てもらえない。一方、広告を前面に押し出し過ぎると今度はゲームが楽しくなくなってしまう。

 その対策として佐々木が考えたのが、ゲームの進行に合わせて段階的に広告を表示することだった。例えば、放尿の時間や尿の勢いなどに応じて、徐々に広告情報を見せるようにした。加えて、ユーザーがゲーム結果を把握しやすいようにして、ゲームから広告情報へ意識が素早く向かうようにした。

 “トイレッツならでは”のユニークなゲーム作りも目指した。ゲームに利用するパラメータも、尿の勢いや量だけでなく、さまざまなものを対象にした。単に勢いや量が多い人が勝つのでは、たくさんの人々に楽しんでもらえないからだ。佐々木は100以上のアイデアを出したが、実用化されたのはわずか5本。それだけ厳しい基準で、ゲーム内容を精査し、絞り込んだのだ。


トイレッツ用ゲーム「パネルクイズ 超ニョー力」(上)。尿の勢いなどに応じてパネルがめくれる。右はトイレッツ用ゲーム「尿内チェッカー」。尿を分析し、その結果を表示する。(写真:セガ)

 こうした数々の課題をクリアし、トイレッツはついに製品化を迎える。2011年10月から、居酒屋チェーンなどを展開する養老乃瀧で先行設置が始まった。同年11月には一般販売が開始。2012年1月末の時点で、70店舗以上にトイレッツが設置されている。

 国内だけでなく、米国の大手IT企業をはじめ、海外からも多くの引き合いがあるという。前述した韓国の金型工場では、こんなことがあった。工場に勤める韓国人が、「日本人はすごいことを考える。ぜひ、われわれのトイレにも設置したいものだ」と、絶賛したというのだ。

 トイレッツの原点は、少年時代の他愛ない遊びにある。おそらくそれは、日本人に限らず、世界中の多くの男性が子供時代に楽しんだことがあるものだ。だからこそ、地域や人種、文化の壁を超えて、世界で広く受け入れられる可能性がある。

 トイレッツの開発は、紆余曲折の連続だった。実際に、一時期はいいビジネスモデルが見つからずに開発が凍結されたこともある。しかし、こうした苦難を乗り越えられたのは、開発メンバー全員が「子供時代の楽しい遊びを再現したい」との情熱を持っていたからだろう。そう、「楽しい」ことこそに製品開発の原点があることを、トイレッツは教えてくれる。=敬称略
─終わり─