前回(第7回)までは、デジタルセル生産の仕組みを構築する際の技術的な面を述べてきた。今回は、筆者がデジタルセル生産を運用・改善してきた約8年の間にどんな変化が起きたのか、逆に普遍的で変わらなかったものは何かについて、エピソードを交えて紹介しよう。

大きく変化した作業者のマインド

 ローランド ディー.ジー.(以下、ローランドDG)の全ての製造現場にデジタルセル生産を導入してしばらくたった時のことだ。社長の冨岡昌弘氏が製造現場を訪れてこう言ってくれた。

「関君、セル生産の導入で色々なことが変わったが、最も変わったのは製造現場の作業者たちの顔つきだな。実に明るくなった」

 その通りである。当時、筆者は1日3回ほど工場全体を歩き回り、作業者に話し掛けたり、表情を確認したりしていた。そんな中、「もう、ライン生産には戻れないよね」「会社に来るのが楽しくなった」という作業者の声をよく耳にした。そのような声を聞くたびに、筆者が目指す「明るく楽しい現場」の実現が確実に近づいていると自信を深めていった記憶がある。

 本連載の第2回と第3回で述べたが、筆者が考えるデジタルセル生産では、「集中力」「注意力」「記憶力」といった人間の弱点をデジタル技術で支援し、人間の強みである「手先の器用さ」「向上心・好奇心」をものづくりに生かすことで、作業者に達成感と高いモチベーションを感じてもらう。そして、最終的には組立作業者としての誇りを持ってもらうことを目指している。「私の造った製品が、世界中の人に使ってもらえる」「使った人はきっと喜んでくれるだろう」などと思いを込めながら組立作業を進めてほしいのだ。

 狙い通り、デジタルセル生産を開始したことで最も大きく変わったのが作業者のマインドだ(図1)。これにより、モチベーションが飛躍的に高まり、実績を生んで組立作業者としての誇りにつながった。作業者の顔つきが変わったのはその証拠である。

図1●デジタルセル生産による作業者の変化
作業者自身の自発的なマインドの変化に加えて、工場見学やメディアへの露出といった外部からの視線が大きく影響して、組立作業者としての誇りが高まる。