前回(第1回)の最後に記したセル生産、特に製品を組み立てる全ての作業を1人に任せる「1人完結セル生産」の3つの大きなハードルについておさらいしておこう。

 第1は、熟練工の養成。大規模アセンブリを1人で完遂できる作業者の養成である。
 第2は、品質の確保。品質管理の仕組みを構築する。
 第3は、設備のコスト。ムダのない設備投資をいかに実施するかだ。

 今回は、これらのハードルをどのようにして乗り越えるかについて考えてみたい。

集中力の継続に頼らない

 まずは、第1のハードルである熟練工の養成を越える方法だ。熟練工というと、長期間の実務経験や訓練によって高い専門的なスキルを身に付けた、いわゆるマイスターと称される人をイメージすると思う。大人数の熟練工の存在が1人完結セル生産の導入の前提であれば、そのハードルはかなり高い。ところが、もし「製造現場の誰もが無理なく1人完結セル生産を行える」ことを実現できればどうだろうか。ハードルは一気に下がり、乗り越えるのは容易になる。筆者が実現したかったのは、まさにこのような状況だ。

 この目的を達成するには、作業者という人間の強みと弱みを熟知する必要がある。それらを知らずに1人完結セル生産の導入を進めると、作業者に無理を強いるだけで、結局、熟練工を養成しなければならないという結論に陥ってしまう。

 熟練工は、一般の作業者と比べて短時間で確実な作業をやってのける。しかし、「不良品を造ろうとする作業者は1人もいない。不良発生の根本原因は全て仕組みにある」。これが、筆者の基本的な考えだ。

 「さあ、今から私は不良品を造るぞ」などと考える作業者はいないのに、不良品は生まれてしまう。作業者によって、同じ工程に要する時間も異なってくるだろう。なぜなら、作業者は人間で、「集中力」や「注意力」に限界があるからだ。

 それなのに、製造現場の管理・監督者はしばしば「不良を造らないように集中力を切らすな。常に注意を怠るな」などと口にする。だが、それで不良がゼロになるのだったら、そんなに楽なことはない。集中力や注意力の持続を作業者に常に強いる方法は間違っている。しかるべき仕組みが必要だ。