「明るく楽しい現場から、お客様に喜ばれる製品が生まれる」。
 この言葉は、筆者が最も大切にしているものづくりへの「思い」だ*1。自分自身の名刺にも記している。これまでの経験から、生産現場で働く人が明るく楽しいと感じていれば、必ず生産性が向上する。生産現場では働く作業者のやる気を高めることが一番である。

*1 この他、「不良品を造ろうとする人はいない、原因は全て仕組みにある」「デジタルはアナログを超えられない。デジタルが進歩するほどアナログも進歩する」「改革は数多くの改善の積み重ねによってのみ実現し、改革が起こったことは後になって分かる」ということを筆者は大切にしている。

 この思いを具現化するために、筆者はローランド ディー.ジー.(以下、ローランドDG)在籍時に、旗振り役として多くのスタッフや生産現場の作業者と一緒に「デジタル屋台(D-Shop)」による生産方式を立ち上げた。この生産方式は、製品(大規模アセンブリ)を組み立てる全ての作業を1人の作業者に任せる「1人完結セル生産」の一形態だ。作業員がストレスに感じる部品の供給や作業状況の確認などをIT活用で半自動化するなどしてできる限り減らし、付加価値の高い作業に集中してもらうための工夫を凝らしている。以下、こうしたデジタル屋台による生産を「デジタルセル生産」と呼ぶ。

 本連載では、ローランドDGでデジタルセル生産を構築した時に得られたさまざまな知見など生産現場での多くの経験を紹介しながら、デジタルセル生産を導入することによって、筆者が生産現場のやる気をどのように引き上げていったのかについて解説していきたい。

ものづくりの5大要素

 デジタルセル生産の詳しい説明に入る前に、まずは、ものづくりで重要な5大要素について確認しておこう。セル生産の基盤が何であるかを理解するためには避けて通れないポイントだからだ。その5大要素とは(1)Safety:安全、(2)Environment:環境、(3)Quality of Products:品質、(4)Cost:価格、(5)Delivery:納期、の5つである。ところが、それぞれについての認識は人によって異なっている。そこで、筆者はこの5大要素を「ものづくりの資格」という切り口で考えてみた(図1)。

図1●ものづくりの要素と資格
「S:安全」や「E:環境」の担保はものづくりの基本となる資格で、その上で顧客に応じた「Q:品質」「C:コスト」「D:納期」によって競争する。