今の大企業にはできない

 残念ながら,こうした趣味性が高い製品を現在の大企業の体制から生み出すのは難しい。今でこそ製造をEMSに委託するのは一般的になったが,企画や開発などほとんどの過程はメーカー内に閉じている。こうした体制では,個人の自由な発想や発案は製品に反映されにくい。大量生産を前提とし,企画のときから売上高のノルマを課せられては,ヒットするかどうかも分からない趣味性の高い製品を世に送り出すことは簡単ではない。

 だからこそ,UGDに大きな期待が掛かる。今の体制でヒットを生み出しにくくなっている大手メーカーなどの閉塞感を打破する可能性を秘めているからだ。個人が自由な発想で企画し,オープンな情報インフラを活用して作ったモノが,かつての一眼レフ・カメラと同じ道のりをたどるのも,決して空想の世界の話ではない。

ユーザーが関与できる体制に

 ただし,UGDの実現には,乗り越えなければならない多くの壁がある。ゴールは,企画,開発,製造というモノづくりの過程でユーザーが関与できるオープンな体制を構築することだ(図2)。これまでメーカーが一元管理し,閉ざしてきたこれらの過程をユーザーに開放してしまうというのは一見,不可能のように思える。だが,実現に向けてのいくつかの片鱗は既に見え始めている。

図2 UGD時代への体制の変化
個人が求めるものを作るUGD時代には,これまでのメーカー主導での体制と比較して,企画や開発,製造といった各過程やコミュニティーのかかわり方に大きな違いが生じるはずだ(a,b)。
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 そのほとんどは,ネット社会の拡大によるオープンな情報インフラの拡充によってもたらされている。コンテンツの世界ではUGC(user generated content)と呼ぶ,ユーザーが作成したものが不可欠な存在となり,コンテンツ事業拡大の大きな推進力になっているのが参考になる。

 UGDを実現するには,UGCと同じことをハードウエアの企画,開発,製造といった各過程で起こさなければならない。具体的には,企画の段階では個々の消費者の発想や発案を積極的に取り入れることが必須である。

 例えば,文具や食品,雑貨といった業界では,ユーザー参加型の商品企画によって実際の製品が市販化されている。アパレル業界ではプロの発想を超えたアイデアを持つカリスマ的なユーザーが登場している。こうしたカリスマ・ユーザーのファッション・スタイルをプロのデザイナーが洋服のデザインの参考にするといった事例が登場しているほどだ。