特化型の実用ミッションが可能になるナノ衛星

 10kg級のナノ衛星では、ピコ衛星と比較してリソースに余裕があるため、目的を絞った特化型の実用ミッションが可能になる。近年注目を集めているのが、船舶の識別信号(AIS:Automatic Identification System)を衛星で受信するミッションである。本来、AIS信号は船舶の衝突予防や運行支援を目的として、局所的な海域での通信を目的としていた。しかし、宇宙からは非常に広い海域が視野に入るため、衛星にAIS信号の受信機を搭載すれば、多数の船舶からの信号を受信できる。受信は、それほどサイズ・重量・電力を要しないため、ナノ衛星にも搭載可能である。ノルウェーのAISSat、米国のAprizeSat、ルクセンブルグのVesselSatなど、AIS受信に特化したナノ衛星やマイクロ衛星が打ち上げられ、グローバルな船舶の運航情報を収集している(米国OrbcommやJAXAのSDS-4のようにマイクロ衛星のサブ機能として搭載している事例もある)。

AprizeSatで取得したAIS信号
AprizeSatで取得したAIS信号
(出典:SpaceQuest)

 同様の目的特化型ナノ衛星としては、北極海航路利用のための海氷観測実験を行うWNISAT-1もある。地球温暖化の影響などにより夏期の北極海の氷は縮退し、商船が通過可能になってきた。日本と欧州間で北極海航路を利用すれば、スエズ運河ルートの約2/3、喜望峰ルートの約半分の距離になり、時間と燃料を節約できる。WNISAT-1は27×27×27cm、重量10kgで可視光と近赤外カメラを搭載し、本記事公開から間もなく、2013年11月21日に打ち上げられる予定である(打ち上げ特設サイト)。

北極海航路と他の航路の距離の比較
北極海航路と他の航路の距離の比較
(出典:ウェザーニューズ)
WNISAT-1
WNISAT-1
(出典: ウェザーニューズ/アクセルスペース)