オープン化を迫られるメーカー

 もちろん,「開発」「製造」の環境整備や大衆化が進んでも,一足飛びにUGDの世界が訪れるわけではない。形のないコンテンツやソフトウエアとは違い,機器を開発・製造するには筐体やハードウエア部品など実体のあるモノを調達しなければならないからだ。「趣味で機器を作るユーザーが,デジタル家電のような高度な開発に必要な巨額の資金を調達するのは無理ではないか」。この疑問に答えられなければ,UGDは実現しない。

 このハードルを越えるための解は少しずつ見え始めている。その一つは,サービス事業者や機器メーカーによるユーザー参加型の開発コミュニティーへの支援である。まずは,ユーザーの新しい発想を求める企業がユーザー参加型の開発コミュニティーを立ち上げ,自社の要素技術や開発リソースなどの提供を始めることになるだろう。

 メーカーにとっては,そこで優れたアイデアが得られれば,自社の新製品開発に生かし,マス・マーケットを対象とした既存ビジネスに生かせる可能性がある。製品がヒットすれば,投入した資金には余りあるリターンが得られるかもしれない。メーカーはその一部を,アイデアを出したユーザーやコミュニティーに還元する。

 これに近い取り組みを始めた企業は,既に登場している。英国のスポーツ・カー専門メーカー,Caterham Cars社は,マーケティング支援会社の英Wikitanium社と組み,自動車愛好家がWebサイトでスポーツ・カーの試作車設計に参加できるプロジェクト「Project Splitwheel」を立ち上げた。Webサイトでは,開発コミュニティー内でユーザーが議論する仕組みや,意思決定に使う投票システムなどを用意する。ユーザーの要請があれば,開発の議論にCaterham社の技術チームが加わり,助言する体制も整えた。技術者が使う開発ツールも可能な限り提供するという。

UGD時代のエコシステム
UGDの普及には,人気の機器を開発する「カリスマ・ユーザー」の存在が欠かせない。こうしたユーザーが作り出す新しい機能や使い方が流行を生み,新たな要素技術の開発につながる。