専用のパイプで応答時間を担保

 ただ、クライアント・プル型は一般に、サーバー・プッシュ型よりも伝送遅延が大きくなります。例えば、HTTPによる通信では、端末のWebブラウザーからWebサーバーに要求したリクエストに対して、Webサーバーから応答が返ってこないと、端末に次のリクエストを送信できません。この仕組みでは、今回のスマートリモコン・システムで目標とした「赤外線リモコンと同等の応答速度」を実現しにくいのです。

 一方、WebSocketを用いたサーバー・プッシュ型の通信方式では、独自プロトコルを用いて端末とWebサーバー間に通信セッションを張り続けます。この専用のパイプ(通信セッション)の中で自由に双方向にデータをやり取りすることが可能です。明示的に切断しなければ、一度確立した通信セッションでデータを送受信できるため、通信のオーバーヘッドを軽減できると期待されています。

 実は、このWebSocketを用いて200万台を超える台数の端末を接続できる環境を実運用した大規模サービスは、世界でも初めての事例です。NTTぷららでは、それを実現するために、さまざまな工夫を加えました。サービスの利用シーンを見ただけでは、携帯端末をリモコンにしてテレビを操作する単純な仕組みに感じられますが、実際はその裏側で数十台のサーバーを用いた大規模システムが運用されています。

 例えば、今回開発したスマートリモコン・システムは、ひかりTV受信用STBと、携帯端末のリモコン・アプリ、携帯端末とSTB間の通信を仲介するWebサーバー、そして会員であることを判別するための認証サーバーなどで構成されています。

 ひかりTVには、この他にメインのサービスであるコンテンツ配信を実現するサーバー群があります。映像などのコンテンツを配信するサーバーや、電子番組表(EPG)や作品情報などコンテンツに付随するメタデータを配信するサーバーなどです。スマートリモコン・システムは、これらのコンテンツ配信系のシステムと連携しながら稼働しています。

 次回は、スマートリモコン・システムが実際にどのように動いているのか。その詳細を解説していこうと思います。

山口 英夫(やまぐち・ひでお)氏
NTTぷらら 技術開発部 チーフエンジニア。2007年NTTコミュニケーションズ入社。入社3年目で現会社へ出向し、現職に至る。主にひかりTVのVODおよびその周辺システムの開発を手掛ける。趣味は映画鑑賞、登山。

宮里 系一郎(みやさと・けいいちろう)氏
NTTぷらら 技術開発部 部長。1995年日本電信電話入社。入社以来一貫してインターネット上のサービス開発に携わる。最近10年間は映像・音楽配信を中心としたシステム開発・サービスの立ち上げに従事。2012年より現職。