試行錯誤がなくなれば日本は他国と同じ

 加えて重要なのは、徹底的に試行錯誤を重ねることです。数学的に問題を解決しようとしても、もちろん簡単にはいきません。これをやったら駄目だった、あれをやったら駄目だった、これを繰り返して正しい結論に導く。この試行錯誤は決して無駄ではなく、これが企業としての脚力となるのです。

 私は研究者だから分かるのですが、新しい論文を書くためには、それに付随するいろいろなことをすべて試しています。だから何が駄目だったか、何がうまくいったかがすべて分かっている。分かったうえで、うまくいったことだけをまとめて論文に出すのです。いろいろ脱線しているから、それに付随しているすべてのことが理解できています。これが強みとなります。それに関しては何を質問されても怖くない。

 私は、特許などの成果だけを買って製品に反映して儲けている韓国企業や中国企業は、絶対に長続きしないと思っています。だって、試行錯誤していないのですから。何か壁に当たったときに次に打つ手を考えられるわけがないんです。

 残念ながら、日本においても試行錯誤を重ねる時間が短くなっているのも事実です。前にも言ったように、すぐに成果が求められるから。昔は研究開発と言えば少なくとも3年掛けてやっていたものが、今は半年とか言われるようになってきた。これだと試行錯誤を重ねることもできない。数年もすると、他の外国企業と変わらなくなってしまう恐れさえある。経営者には、一時は低空飛行でもいいからじっくりやってみろ、と現場に言えるぐらいに胆力があってほしいです。

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