「IT部門の担当者は、もっと現場の業務について勉強すべきだ」。そう不満を漏らす、ものづくりITのユーザー部門の技術者は少なくない。現場のことを知らなければ、そこで使う優れたシステムを企画することは難しい。その意味で、こうした不満が出てくるのは仕方がないのだ。実際、ITの専門家からも「IT部門にとっての顧客は現場。営業マンが顧客のことを勉強するように、IT部門も現場のことを勉強するのは当然」〔デジタルプロセス(本社神奈川県厚木市)取締役相談役の間瀬俊明氏〕という声がある。だが、1つ疑問がある。果たして、ユーザー部門の担当者は、IT部門への不満を口にしているだけで優れたシステムを手にできるのだろうか。

ニーズは現場が一番知っている

 「ユーザー部門の人たちは、現場においてITで何ができるのか、その可能性だけでも示せるようになってほしい」。こう吐露するのが、山形カシオ取締役部品事業部長でIT活用の推進役でもある鈴木康平氏である。その最大の理由が「本当のニーズを知っているのは現場」(同氏)だからだ。逆にいうと、IT部門に任せきりになると、現場にとって使いにくかったり、そもそも現場が必要と感じなかったりするシステムが出来上がってしまう恐れがあるのだ。

 元日産自動車の技術者で、かつて同社の新開発プロセス「V-3P」の構築を担当した福士敬吾氏も同様の意見。実際、V-3Pで使われている一部のツールは、ユーザー部門のある担当者がCADを見て「これに、あるノウハウを入れたら仕事が速く進められそう」と提案してくれたことがきっかけだったという。

 その同氏が必要と主張するのが、ユーザー部門の意識改革。「設計者は良い製品を作ることには積極的だが、製品開発のための良い仕組みを作ろうとはあまり思っていない。しかし本来は、良い仕組みを作ることも設計者のもう1つの仕事のはず」と指摘する。

 では、そうした提案ができるようになるには、ユーザーは意識を変えた上で、どのような能力を身に付ける必要があるのか。鈴木氏は「ITの持つ可能性を想像できる程度のITの知識を持つべき」とする。IT技術の細部は分からなくても、そのインパクトが理解できる程度にはITを知っておく必要があるということだ。鈴木氏は「そうした人が現場に何人かいればいい」と付け加える。