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薄くても高音質にできる仕掛け

ジレンマを解消する「HVT方式」の実現技術(第2回)

2013/02/06 00:00
出典:日経エレクトロニクス2010年5月3日号pp.76-78 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

機械的制限の少なさが生む効果

 HVT方式と従来のスピーカーの違いは,両者の構造を比較すると,より明確となる(図1)。そして,高い音質を備えたまま薄型化できるHVT方式の利点もはっきりと見えてくる。

図1 HVT方式のメリットリンク
機構を取り入れることにより,(i)大幅な薄型化が可能,(ii)振幅を制限する必要がないために柔らかい支持系を採用 でき(低Fo),これにより低域の再生能力を確保,(iii)強力な駆動系(磁気回路とボイス・コイル)を配置可能であり,小容積から豊かな低音再生が可 能,(iv)駆動力方向と振幅方向が直角のため不要振動が少ない,(v)リンクによる多点駆動により,振動板のフラット化が可能,といった利点が生まれ た。
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 従来のスピーカーには,(1)コーン紙の深さ,(2)ダンパー(サスペンション)・ネック下のクリアランス,(3)ボイス・コイルの巻き幅,(5)ボイス・コイル下のク リアランス,(6)ヨーク(磁気回路)の厚さ,といった厚さを決める要素がある(図1(a))。(1)~(5)を足し合わせた寸法がスピーカー・ユニットの厚さとな る。その構造のまま無理に薄型化すると,(2)と(4)の寸法が不足してコーン紙振幅時に早く底当たり(下の部品とぶつかる)をしたり,エッジやダンパーが突っ 張って音に歪みを発生するなど,低域再生には不向きになるという欠点があった。

 従来の薄型スピーカーでは,振動系の「底当たりによる異音や破損」を防ぐために,硬いダンパーや早く突っ張るエッジなど,振幅の機械的な制限が必要だっ た。一般にいわれる「携帯型ラジオは大きな音を出すと,すぐに音割れが生じる」という症状は,このような機械的制限が主な原因である。

 HVT方式では,振動板の背面に駆動源(マグネットやボイス・コイル)を配置する必要がない(図1(b))。駆動源を振動板の側面に配置し,リンク機構 を介して振動板を振幅させる。これで,ボイス・コイルと振動板の双方において,振幅方向に十分なクリアランスを確保できる。従って,過度な機械的制限が不 要になる。この結果,従来のダイナミック型スピーカーに比べ,より低いFoのスピーカー・ユニットの設計が容易になる。厚さに制限されず,強力な駆動部 (磁気回路やボイス・コイル)の配置も可能なため,従来のスピーカーよりも小容積なエンクロージャーから十分に豊かな低域再生ができるのだ。

小林 博之
東北パイオニア スピーカー事業部 第一生産部 開発技術部 音響開発課 課長

堀米 実、阿部 泰久、引地 俊博
同事業部 第一生産部 開発技術部 音響開発課

前川 孝治
同事業部 第一生産部 開発技術部

HVT方式の動作原理

 では,HVT方式の動作原理を紹介しよう。まず,HVT方式の駆動源について見ていく(図2)。HVT方式に使用しているボイス・コイルはフラット・タ イプであり,コイルはトラック形状(渦巻き状)に巻かれている。ボイス・コイルは上下2組のマグネットとプレートに挟まれおり,磁気回路は2ギャップ方式 となる。

†2ギャップ方式=ボイス・コイルに流れる電流と鎖交する向きの磁束を発生させる磁気ギャップ部が2組ある,磁気回路方式のこと。

図2 HVTユニットの駆動メカニズム
車載製品に搭載しているウーハーを例に,分解図と側面図を示した。
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 磁気回路から発生した磁気エネルギーは,ボイス・コイルの2長辺を集中して横切る強力な磁束となる。音声信号が入力されるとフレミングの左手の法則によ り,フラット・タイプのボイス・コイルは水平方向に往復運動をする(駆動源が動電型,いわゆるダイナミック型の場合の説明)。

 ボイス・コイルはリンク機構両端(力点)に連結されており,水平方向の振動をリンクに伝達する。伝達された振動はスコット・ラッセルのリンク機構によって振動方向が直角,すなわち上下方向に変換される。

 リンクの初期角度を変えると,ボイス・コイルの移動量と振動板の移動量の比も所望の値に設定できる。例えば,リンクを立てて設計しておけば,極めて小さな容積のキャビネットを使う場合であっても低域再生限界を,より低くすることが可能だ。逆に,リンクを寝かせ気味に設計しておけば,フリー・エア状況(空気ばねが弱い状況)でより感度が高いスピーカーを得られる。