DyやTbの使用量を減らす取り組みとして実用化が進んでいるのが、粒界拡散法という技術だ。信越化学工業、日立金属、TDKが開発した。前の2社が既に、同技術を適用したNd-Fe-B系焼結磁石の販売を開始しており、TDKも2011年から量産を始める計画である。そのDyやTbの使用量は、信越化学工業の同磁石の場合で「二合金法という従来の造り方の半分くらい」(同社)に減った(図2)。
Nd-Fe-B系焼結磁石にDyやTbが必要とされるのは、保磁力を確保するためである。保磁力とは、逆磁場(永久磁石の磁化方向と逆の磁場)や温度変化に対する、磁石の減磁しにくさを表す値。Nd-Fe-B系焼結磁石では通常、高温になるほど逆磁場によって減磁しやすくなる。そこで、保磁力を上げるためにDyやTbといった重希土を加える。例えば、磁石の温度が200℃程度になるとされるHEVの走行用モータでは、質量でNdの4割分を重希土に置き換えている。
DyやTbの添加で保磁力が上がるのは、同磁石のNd2Fe14Bという組織構造においてNdの一部がDyやTbに置き換わるためだ。R2Fe14B(Rは希土類元素)という化合物では、RがNdのときよりもDyやTbのときの方が、保磁力と比例する異方性磁界が高い。
粒界拡散法は、そうしたDyやTbをNd-Fe-B系焼結磁石の組織の粒界部分に選択的に導入することができる(図3)。通常、同磁石は、4μ~5μm前後のNd2Fe14Bの結晶(主相)が集まってできており、主相と主相の間(粒界)にNdリッチ相(Nd2Fe14BよりもNdが多い化合物の組織)が生成される。ただ、一般にはこのNdリッチ相が生成されていなかったり主相の界面が荒れたりしているため、減磁しやすくなる。
そこで、減磁に強いDyやTbを粒界に選択的に導入することで、これまでよりも少ない量で同等の保磁力を確保しようというのが、粒界拡散法の基本的な考え方だ。従来の二合金法では、磁石の原料となるNd-Fe-B系の合金を造る際にDyやTbを混ぜていたため、主相と粒界の区別なくDyやTbが広く分散していた。
これに対し粒界拡散法では、原料の合金に添加するDyやTbを減らし、残りの一部を粒界の改善に回す。まず、通常のNd-Fe-B系焼結磁石と同様に、原料の合金を粉砕して粉末にし、磁場をかけながらプレスして、その後に焼結する。従来と違うのは、焼結後にある処理を施す点だ。
その処理方法は、大別すると2種類ある。1つは、液状化が可能なDyやTbの化合物を使うもの。同化合物の中に浸漬したり同化合物を塗布したりすることで、焼結後の磁石の表面に同化合物の膜を作る。その上で熱処理を施すことで同化合物を分解して、DyやTbを粒界に拡散させる。もう1つは、蒸着を利用するもの。真空チャンバ内に焼結後の磁石とDyやTbを入れて加熱すると、DyやTbの蒸気が発生して磁石の粒界に拡散する。前者は信越化学工業とTDKが、後者は日立金属が採用している。