Google社ですら“古い”企業

 特にIT関連の若手技術者にとって、Google社は憧れの就職先の一つ。そこへの就職は、彼らの大きな転機だろう。「工学系で優秀な学生が選ぶのは、 Google社か、外資系の金融機関」と、大学関係者が口にするようになって久しい。技術開発に携わる場として、同社は国内のエレクトロニクス大手よりも 魅力的に映る。Google社は、2011年に世界で6000人以上を増員すると表明した。日本でも200人以上を採用する計画だ。これは、パナソニック 単体が2012年度に予定する国内新卒採用と同じ規模感である。

 「今を時めくGoogle社ですら古い企業。もっと先に進みたい」。そう考え、起業の道を選ぶ若手技術者もいる。検索エンジンや推薦エンジンなどのソフトウエア開発を手掛けるプリファードインフラストラクチャーは、そんな技術者が集まるベンチャー企業の一つだ(図8)。

図8 技術者を生かす企業づくりに挑む
プリファードインフラストラクチャーの創業メンバーである社長兼CEOの西川氏(写真左)と、特別研究員の岡野原氏(写真右)。

 創業メンバーは東京大学や京都大学の出身で、情報処理推進機構(IPA)の未踏ソフトウエア創造事業やACM国際大学対抗プログラミングコンテスト (ACM-ICPC)の世界大会出場を機に出会った学生たちだ。創業した2006年3月は、いわゆるライブドア事件の直後。ITバブルは崩壊し、周囲に起 業した学生はいなかった。

 創業メンバーの一人である特別研究員の岡野原大輔(29)は「それでも、起業をリスクの高い選択と思ったことはない」と言う。大手企業に就職する選択肢 はほとんど頭になかった。「自分で起業した方が、開発した技術を早くユーザーに届けられる。クラウド環境の普及もあり、ソフトウエア開発には大きな資本も 場所も必要がない」と説明する姿に気負いはない。あくまで自然体だ。

 売上高は右肩上がりに増え、創業2年目から黒字に転じた。目下の課題は、今後の成長を見越した、技術者を生かす組織づくり。最近、ソニーで分散処理技術 などを開発していた50歳代のベテラン技術者を迎え入れた。長年にわたって研究開発を続けるエレクトロニクス大手への尊敬の念は強く、学ぶべき点も多いと 考えている。だが、彼らが目指すゴールは、そこにはない。Google社でもない。「これまでにない、全く新しい社風を築く。それが目標」と、社長兼 CEOの西川徹(28)は決意を見せる。

 海外企業への転職、事業再編がもたらす異動、M&Aによる職場環境の変化、そして起業─。日本の技術者は大きく変わる環境の中で、それに対応しようとしたたかに自ら歩む道を選ぶ。激動の時代に確実に言えること。それは、変化に対応する者だけが挑戦の舞台に立てるという、古くて新しい結論だ。