東アジア企業の台頭、事業構造改革、企業の合併・買収――。エレクトロニクス業界の構造変化は、技術者に転機をもたらす。変化の時代をしたたかに生きる技術者の姿を紹介しよう。=文中敬称略

図1 チャンスは無限に広がっている
図1 チャンスは無限に広がっている
久多良木氏。2009年10月にベンチャー企業を立ち上げた。「技術者にとっては、何でも挑戦できる面白い時代」と、今を分析する。(写真:栗原 克己)

 これまでが準備段階だった。

 久多良木健(60)の目には、今訪れているエレクトロニクス業界の転機がそう映る(図1)。

 デジタル機器の価格低下や、東アジア企業の台頭などに苦戦する国内の大手電機・家電メーカー。「だが、待て」と、久多良木は考える。新興国を含む世界中の多くの人々が安価に情報通信端末を手に入れ、膨大な数の人と人がインターネットでつながり合う。この環境整備は、これから訪れる真の変革の助走だったのではないかと。

 家庭用ゲーム機「プレイステーション」をはじめとする、さまざまな機器をソニーで開発した敏腕技術者。自らも、転機に身を投げ出し、その変革の体現を目指す。1年半前に同社出身の技術者らとベンチャー企業「サイバーアイ・エンタテインメント」を立ち上げた。「今のエレクトロニクス技術者は幸せだ」と、久多良木は羨ましがる。クラウド環境の普及やハードウエアのコスト低下によって「昔であれば、構想はあっても到底実現できなかった機器やサービスの開発に挑戦できるのだから」。

 一方で、安易に閉塞感を強調する最近の風潮にはくぎを刺す。「会社は夢を実現するために集まる場所。そのためには、かつて誰かが決めた組織の定義をつくり直す決意も必要だ」。