2010年度の国民医療費は37.4兆円となり、4年連続で過去最高を記録した。その要因としては、医療技術の高度化や高齢者の増加などが指摘されている。増え続ける医療費を抑制するために、病気になってからケアするのではなく、病気になる前にその兆候を捉えて早期に介入することで病気の発症を防いだり、軽症で済ませたりする予防医療の必要性が社会的に高まっている。

 一方、病気になる前の個人が自覚症状として健康不安を感じることはほとんどなく、意識的に予防に取り組む人は少ない。そこで、個人の生体データや生活データ(健康データ)を日常的に取得し継続的に管理・分析することで、個人の健康状態を把握し、病気の兆候を早期に捉える技術に注目が集まっている。特に、センシング技術や集積技術などの進化によって、これまでは難しかった健康データの取得が可能になり、客観データに基づいた予防医療の可能性が広がっている。

 例えば、ユニオンツールは、約4cm角で6万5000円(セット価格)の低価格化を実現した量産タイプの心拍センサーを製品化している。心拍(数、周期、波形)、体表温、3軸加速度を同時に測定する。これらを使い分けて、“見える化”が難しかった人の心や体の状態をモニタリング・記録する。取得したデータを処理するアルゴリズムの開発により、ストレス・チェック、睡眠チェック、フィットネス、高齢者の見守りなど、様々な応用が期待できるという。

 独自のセンシング技術により、手首に付けるだけで脈拍の常時測定ができる「リスト型脈拍計」を開発したのはセイコーエプソンだ。内臓脂肪を燃焼する運動強度(脂肪燃焼ゾーン)を脈拍測定によって把握できるため、効率的なメタボ改善が可能になる(図1)。このリスト型脈脈拍計を使用した健康保険組合向けの「生活習慣改善支援サービス」を2011年10月から始めた。通常は改善が認められた人の比率は30~40%であるのに対し、7社で試験的に効果検証を実施したところ平均86%に達したという。

図1●セイコーエプソン脈拍センサー「リスト型脈拍計」の特徴(左)と脈拍の測定原理(右)
脂肪燃焼ゾーンとなる脈拍(拍/分)は、個人によって異なる。このリスト型脈拍計を付けて3分間歩くことで、個別の脂肪燃焼ゾーンを簡易的に自動計測できる。手首の脈拍測定を可能にしたのは独自のセンシング技術による。血中のヘモグロビンが光を吸収するという性質を利用し、手首の皮膚内部の血管にLED光を照射し、ヘモグロビンの量に応じて吸収せずに戻ってきた光の変化をフォトダイオードで検知する。微弱な信号を効率的に取り出したり、腕を振ることによる血流ノイズを除去したりするための工夫を施している。 (画像はセイコーエプソンのデータ)
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 これらのデバイスに共通しているのは、個人が簡便に自身の健康データを取得できる点にある。医療機関などを訪れることなく、自分自身で健康管理が可能になり、疾患予防や健康増進が期待できる。