SYNCの進化は,まだまだ止まらない。2010年秋に,ハードウエアとソフトウエア環境を全面的に強化した第2バージョンを開発した。それまでのように車載ラジオの単なる周辺機として動作させるのではなく,車内の情報システムを総合的に管理するセンターとしての役割を持たせた。 

 通信環境の強化にも取り組んでいる。さまざまな携帯機器を接続できるようにするため,無線LAN機能も追加した。この機能は,ユーザーが使うのはもちろん,Ford社の工場でSYNC向けソフトウエアなどを車両にインストールするときにも活用されている。

携帯電話機のアプリも利用

SYNCは生産現場でも役に立つ
SYNCの第2バージョンでは,無線LAN機能を追加した。Ford社はこの機能を用いて,SYNCなどのソフトウエアをインストールしている。(写真:Ford社)

 さらにもう一つ,Ford社はSYNCに新機能を入れた。それは,デジタル家電業界でのトレンドを反映させたものだ。

 現在,米国はスマートフォン人気で盛り上がっている。このスマートフォン向けのソフトウエア・アプリケーションを車内でも利用できるようにする機能である。例えばスマートフォンを用いて,米国で人気を集めているオンライン・ラジオのサービス「Pandora」にアクセスし,音声や関連映像,テキスト情報をSYNC経由で車内に流す。SYNCの音声認識技術を使えば,ラジオ番組を切り替えるといったことなどもできる。

Ford社 Mobile Application Connectivity, Product ManagerのJulius Marchwicki氏

 こうした機能の開発を担当した技術者の一人が,大学でコンピュータ技術を専攻したJulius Marchwicki(現Ford社 Mobile Application Connectivity,Product Manager)である。彼によると,Ford社の幹部は「スマートフォンは家電業界の影響を強く受けており,アプリケーション開発も活発だ。そのスマートフォンと自動車を結び付けることができれば,我々は家電業界ともっと密な関係を築けるだろう」と考えたようだ。

 さて,SYNCは今後どう進化していくのだろうか。現状では,スマートフォン向けアプリケーションとSYNCを連携するためのAPI(application programming interface)は,Ford社が指定した数社のアプリケーション開発企業にしか公開されていない。ただ,MarchwickiによるとFord社は今,APIをもっと幅広く業界に公開することを検討しているらしい。同社はSYNCを通して,長年クローズドだった自動車業界を家電業界に対してオープンにする戦略を今後も取り続けていくことだろう。=敬称略

─終わり─