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最終回:業界最低ランクからイノベーションの目玉へ

Phil Keys=Principal at Maido Media
2012/09/24 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2010年11月29日号 、pp.134-137 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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 車載テレマティクス・システム「SYNC」の製品化に向けて動きだしたFord社。
開発チームには,試作機の開発が課せられることになる。
ただ,彼らに与えられた時間は従来の自動車業界の常識から考えると,あまりにも短かった。

(a)はiSuppli社,(b)(c)(d)はFord社の提供。
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 新しい幹部が着任し,「SYNCを正式に製品化する」という決定が下ったことで,米Ford Motor Co.の開発チームの士気は一気に高まった。SYNCは柔軟性の高い車載情報システム向けのプラットフォームであり,これを用いれば旧態依然の開発体制から抜け出せるためだ。

 同じころ,Ford社は競争が激しくなる自動車市場で勝ち抜くために「Innovation」というスローガンを掲げ,企業体質や開発体制などを根本から一新しようと動き始めた。その中で,SYNCは目玉のプロジェクトとなった。

 それまでのFord社の車載システムを見ると,Bluetooth機能もなければ衛星ラジオもない,携帯型音楽プレーヤーを接続するための端子もない。しかもせっかく時間をかけてシステムを開発しても,それを出荷するときには既に時代遅れの技術になってしまっている。SYNCの開発を担当し,ストレートにものをいうGary Jablonski(現Ford社 Infotainment Product Development Team,Manager)は「そのころの我々は,業界内で最低ランクに近い存在だった」と言う。

大人数を投入したMicrosoft

2007年1月に米国デトロイトで開催されたモーターショー「2007 North American International Auto Show」で,SYNCを発表するFord社 President兼CEOのAlan Mulally氏。Microsoft社のBill Gates氏も中継映像で登場した。(写真:Ford社)
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Ford社 Infotainment Product Development Team,ManagerのGary Jablonski氏

 Jablonskiたちには,試作機を作ることが命じられた。“納期”は2007年1月。この時期に開催される北米最大のモーターショー「2007 North American International Auto Show」と,世界最大級のデジタル家電関連の展示会「2007 International CES」でお披露目するのだ。「あと1年もないぞ。急がなければ…」。メンバーたちに与えられた時間は,これまでのFord社の「常識」からすればあまりにも短かった。

 とはいえ,強い追い風も吹く。通常,開発に当たっては厄介な社内ルールがいろいろあるが,それに従わずに自由にやってよいという特権が与えられたのだ。メンバーたちの気持ちに再び火が付いた。

 Jablonskiのチームは,SYNCの心臓部であるコンピュータ部とソフトウエアの開発を担当した。開発チームのメンバーは10人程度。Ford社では,ごく普通の開発体制である。これに対して,タッグを組む米Microsoft Corp.のメンバーはなんと50人以上。これにはJablonskiも驚いた。

 そのチームの中には,Walter Sullivan (現Microsoft社 Windows Embedded,Senior Product Manager)がいた。Sullivanによると,Microsoft社にとってSYNCの開発はWindowsの開発ほどではないものの,「大規模プロジェクトだった」という。

 このMicrosoft社の開発チームも,SYNCプロジェクトに心を躍らせていた。それまで同社の技術を採用した自動車のほとんどは,米国市場に出荷する予定のない海外向けのものだった。米国市場を主戦場とするFord車であれば,「『僕はあのSYNCの開発に携わったんだよ』と,親戚や友達に話すことができる。だから俄然,やる気がわいてきた」(Sullivan)。

音声認識技術開発でも協業

 SYNCの開発では,Microsoft社のほかにもう1社,重要なパートナーがいた。音声認識技術を担当した米Nuance Communications, Inc.である。実は同社とFord社は付き合いが長く,SYNCの音声認識技術を担当したBrian Radloff(現Nuance社 Automotive Team,Director of Professional Services)はFord社から独立した電装品メーカーである米Visteon Corp.で働いていたこともあるほどだ。

 SYNCの製品化が決まったころは,Nuance社も携帯型音楽プレーヤーの市場が急拡大していることが気になっていた。このプレーヤーに音声認識技術を実装できればいいが,技術自体はまだまだ発展途上にあった。こうした中でNuance社はベルギーやドイツにある研究所を中心として,積極的に開発に取り組んでいた。

Nuance社 World Wide Embedded Solutions Architect of the Mobile Speech Division,DirectorのBrian Radloff氏

 一方,Ford社はSYNCの製品コンセプトを固める際,車内のユーザーが音声認識によって携帯型音楽プレーヤーを操作することができれば,大きな魅力になると考えていた。そこで2005年ごろ,Ford社は音声認識技術の可能性について,Nuance社と議論することになる。その場でRadloffはこう明かした。「実は,我々は音声認識技術の開発を着々と進めている」。こうしてNuance社も,SYNCの開発に名を連ねることになった。

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