デザイナー・エンジニアには「売り手」としての視点も求められる。私はサイクロン掃除機の第一号機を開発してから、さまざまな小売りや提携相手に自ら営業に回って売り込んできた。開発したエンジニアやデザイナー自身が売り込んでこそ、商品の良さや機能を的確に相手に伝えられる。デザイナー・エンジニアが、営業でありマーケティングの担当者であると考えている。

 はっきり言ってしまうと、私はいわゆるマーケティングというものを軽視する傾向にある。「マスマーケットで成功するには価格を下げなくてはならない」「企業のブランド力が強ければ、商品に高い値段をつけても売れる」という類のセオリーに対してはことに懐疑的だ。

 値段が安ければ売れるかもしれないが、多くの顧客に受け入れてもらうための必須条件は値段ではない。低価格を提供するために、コストを下げてそれなりの品質やデザインのものしか提供しないというのは本末転倒ではないだろうか。例えば当社製品の特徴であるクリアビンは素材にポリカーボネートを使っているが、これは一般的な掃除機に使われる高密度ポリエチレンと比較してコストは六倍になる。しかし耐久性があり、衝撃にも強い。