日本向け最新機種のDC12を開発するにあたっては、小型化するための技術とデザインを追求した。技術面では従来のモーターに不可欠だったファンやブラシをなくし、大幅に小型化したデジタルモーターを八年かけて開発した。しかしどんなに本体を小型化しても、ホースやパイプなどが従来通りだと、収納時にスペースを取る。そこでホースやパイプを本体に収納できるデザインにした。「テレスコープ」と名付けたパイプはボタン操作によって簡単に長さを調節でき、ホースは本体に巻き付けて収納できる。本体にホースを巻き付けた様子はデザインとしても斬新なものだ。しかしこれもまたデザインで奇をてらったわけではなく、小型化の技術を最大限顧客が享受するためのものだ。

 さらにDC12はソフトの面でも大きな進化を遂げ「自らを語る」機能を搭載した。デジタルモーターにはブルートゥースの規格に準拠したICチップが搭載されている。ブルートゥース規格の携帯電話などを近づけると、モーターのICチップが商品のIDや生産時期、これまでの使用履歴などのデータを携帯電話に送信する。このデータを携帯電話から当社のコールセンターに送ることができる。故障したときあわてて取り扱い説明書やメーカーの連絡先を探さなくても、掃除機自らが必要なデータを伝えてくれる。

全員が作って使う

 技術とデザインが最も重要であり、しかもそれらは一体であるべきだ。従って当社にとってエンジニアとデザイナーが最も大事な人材である。当社ではデザイナーとエンジニアを区別していない。デザインと技術にかかわるスタッフは「デザイナー・エンジニア」と呼ばれ、製品のコンセプト開発から最終テストまで、全員が関与する。デザインについて学んできた社員もエンジニアリングを学ぶし、サイエンスやエンジニアリングを学んできた社員もデザインの知識を身に付ける。学生生活はごく短く、そこで学んだことより、会社に入ってから学ぶことのほうが多い。

 当社では中途社員より新卒社員を優先的に採用している。柔軟な考えができる若い人材を採用し、「ダイソン流」の考え方を身に付けてほしいと考えているからだ。

 入社した社員には出社の初日に必ず掃除機を組み立ててもらう。学校を出たばかりの社員も上級幹部も変わらない。テクノロジーを理解するためには頭だけでなく体で体験することが重要で、それには自分で組み立てることが最も有効だからだ。組み立てた掃除機は自分の家に持ち帰って使ってもらう。商品の作り手であるだけでなく、使い手であることも常に意識し、使い手の視点を製品に盛り込むためだ。当社のエンジニアは週末になると小売りの店頭で顧客に商品の説明をする。ここで既存の顧客に使い勝手や改善要求を直接聞くこともできる。DC12の通信機能も、社員の使い手としての視点から生まれたものだ。