スポーツ選手の身体の動きを精密に計測するセンサ技術は今後、技術開発の牽引役として新しい応用分野を開拓する可能性もある。例えば、九州先端科学技術研究所(ISIT)はロジカルプロダクトと共同で、人体の姿勢を推定し可視化する技術の研究を進めている。リハビリや介護の現場での応用を視野に入れた研究だ。

図3 人間の姿勢を可視化
九州先端科学技術研究所(ISIT)が開発した可視化ソフトウエアの画面例。

 ロジカルプロダクトの9軸動きセンサと、米Microsoft社の画像距離センサを使ったモーション入力センサ「Kinect」を組み合わせる。Kinectの技術で取得した身体の骨格などの位置を割り出し、その動きを身体に取り付けた小型センサの計測結果と同期させる。これを用いて身体の動きを3次元グラフィックスで可視化する技術だ。実際の身体の動きを見られるようにすることで、リハビリ対象者に視覚的にフィードバックできる。それをヒントに訓練するという点は、スポーツのトレーニングと同じ考え方だ。

 これまでもカメラを用いてリハビリを支援する技術は存在したが、課題があった。撮影で身体の陰などの死角に入ってしまうと動きが見えないことに加え、腕をひねる動作などカメラでは撮影しにくい動きが少なからず存在するのだ。画像距離センサでも同様だが、動きセンサを組み合わせることで死角が格段に減る。

 「センサによる計測と、筋肉の動きを計測する筋電計の結果を組み合わせることで、可視化はより効果が高まる。スマートフォンやタブレット端末の普及で、分析の専門家でなくてもリハビリ患者が自分で結果を確認できる環境を安価に整えられるようになるだろう」と、研究を担当するISIT 生活支援情報技術研究室 研究員の吉永崇氏は見ている。

本格化する「道なき道」を切り開く取り組み

 ロジカルプロダクトの澤田氏は、「リハビリのような遅い動作では、遅いなりの計測精度が求められる」と指摘する。「そこでも、スポーツ分野での計測技術の知見が生きてくる。人体の動きという物理的な事象を扱うが故に、計測現場とのコミュニケーションが不可欠。スポーツ分野での力学的な意味とセンサの計測をリンクさせる不断の取り組みがノウハウの蓄積につながる」(同氏)。

 動きセンサ、無線通信技術、可視化技術を極限まで使い倒し、そのポテンシャルを100%引き出す。これらの技術を他の分野でも使いこなすための多くのヒントが、スポーツ分野には隠れているというわけだ。もちろん、頂点に存在するトップアスリートの動きから得た知見は、一般のスポーツ愛好家向けの民生機器によるサービスにも十分応用できる。

 今、デジタル・スポーツ分野では、世界規模で「道なき道」を切り開く取り組みが本格化している。それは、まだ誰も歩んだことのない大地である。誰よりも先に開拓し、ノウハウを蓄積した先駆者は大きなアドバンテージを得る。その開発競争が、多くの開拓者の手で進んでいる。