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図2 スポーツ分野と偶然の出合い
ロジカルプロダクト 代表取締役社長の辻卓則氏(左)と、同社 ワイヤレスセンシング事業部 事業部長の澤田泰輔氏。

 室伏氏らが実験に使っている動きセンサの開発企業は福岡市にある。創業18年目のロジカルプロダクトだ。同社は、無線やセンサ関連を軸に技術開発を手掛ける企業。20人ほどの社員のほとんどが技術者である。

 橋梁監視用のセンサ・ネットワークの技術などを開発してきた同社は偶然、スポーツ分野に出合った。2008年ころのことである。無線機能を備えた動きセンサを探し求めていた慶応義塾大学の太田氏が、同社の無線モジュールを展示会で見かけた。ロジカルプロダクトはちょうどこのモジュールの用途を模索していたところで、「人体の動きの計測分野にニーズがある」という同氏の言葉は渡りに船だった。

 「太田さんには『安くて、遠くに投げ飛ばしても平気な小型センサが欲しい』と言われまして。なかなか難しそうだと感じた」と、ロジカルプロダクト代表取締役社長の辻卓則氏は振り返る。「その一方で、新しい分野への挑戦は面白そうだと感じた」(同氏)。

 2009年末に完成した最初の小型センサは、外形寸法が55mm×40mm×20mmほど。その後、40mm×30mm×20mmと約半分の体積に小型化した品種も開発した。2.4GHz帯を用いた独自プロトコルの無線通信技術と、それぞれ3軸の加速度センサ、角速度センサ、地磁気センサを内蔵する9軸の動きセンサだ。最新版では、16ビットのA-D変換機能を備え、1kサンプル/秒でデータを測定できる。

ちょっとしたオーバーヘッドも致命傷に

 無線通信で独自プロトコルを用いたのには理由がある。「Bluetooth」などの標準技術では、通信のオーバーヘッドでリアルタイムの計測に支障を来す可能性があるからだ。スポーツ選手の動きに追随するには、ms単位の計測制御が不可欠だ。データ処理や通信でオーバーヘッドが生じると、計測結果によるフィードバックのタイミングがずれてしまう可能性がある。

 室伏氏らが研究するような選手へのリアルタイムのフィードバック用途には、最終的な目標がある。それは、コーチなどの計測者がいなくても選手一人でトレーニングできる環境整備だ。そのためには、リアルタイム性が極めて重要な要素になる。「計測の開始や停止のタイミングなどが少しずれると、選手は違和感を感じる。そのストレスを減らすためには、通信処理などのオーバーヘッドを極力小さくすることが必要だ」と、ロジカルプロダクトでセンサ開発を担当するワイヤレスセンシング事業部事業部長の澤田泰輔氏は話す。

 ロジカルプロダクトの小型センサは、今ではハンマー投げ以外にも応用分野が広がっている。水泳やテニス、野球、サッカーなど採用事例が増えているという。それに合わせて品種も増やした。高速仕様の製品には計測できる角速度が最高6000dpsの品種や、加速度が最高250Gの品種がある。「テニスや卓球のラケット、野球のバットのスイング、フィギュアスケートのジャンプの着地時の衝撃などの測定が可能」(澤田氏)という。