前者のドライウエルのベント操作では、大量の放射性物質がそのまま環境に放出される*5。一方、後者のウエットウエルのベント操作では、大量の蒸気がプールを通過する際に冷却/凝縮され、その過程で放射性物質が水に溶け込む。福島第一原発事故の際に実施されたベント操作は、すべて後者だ。

 放射性物質が水に溶け込む割合は、放射性物質の核種や圧力抑制室の圧力/温度、通過水の厚さに依存する*6。米Oak Ridge National Laboratoryが実施した標準的な条件による実験では、ヨウ素131が水に溶け込む割合は99.0~99.9%とされている4)

 逆に言えば、ベント操作(2号機圧力抑制室の損傷もベント操作相当として含む)により環境に放出されるヨウ素131などの放射能量は、圧力抑制室のプール水の効果でわずか0.1~1.0%にすぎない。この程度の量では、福島県などの汚染源の主たる要因にはならないはずだ。

 東京電力の報告書によれば、実際のベント操作は、1号機で3月12日14時30分の1回(図21)、3号機で3月13日の昼から3月15日の午後にかけて5回実施された(図31)。2号機では、実施されていない。

図2●1号機の原子炉格納容器のドライウエル(D/W)と圧力抑制室(S/C)の圧力変化
図2●1号機の原子炉格納容器のドライウエル(D/W)と圧力抑制室(S/C)の圧力変化
ベント操作は1回実施された。東京電力の資料を基に本誌作成。
図3●3号機の原子炉格納容器の(D/W)と圧力抑制室(S/C)の圧力変化
図3●3号機の原子炉格納容器の(D/W)と圧力抑制室(S/C)の圧力変化
ベント操作は5回実施された。東京電力の資料を基に本誌作成。

 ところが環境への放出放射能量はこうした個々のベント操作の影響をあまり受けず、3月15日早朝から顕著に増えている5)。実際、飯舘村などの特定地域において、累積の放射能値が3月15日から飛躍的に増加しているのだ6)

 この事実は、ベント操作以外に放射性物質の漏洩ルートがあることを示唆している。

*5 ドイツやフランス、スイスなどの欧州先進国の軽水炉には、環境へ放出される放射能量をできるだけ少なくするため、排気塔につながる配管の途中に巨大な放射能フィルタが設置されている。これがない日本の安全性に対する考え方は、世界的に見ても時代遅れといわざるを得ない。
*6 スリーマイル島原発事故では、ヨウ素131が漏洩ルートにおいて水を通過したため、環境への放出放射能量は奇跡的なほど少なかった。具体的には、原子炉停止時のヨウ素131の3×10-5%相当。

参考文献
1)東京電力,『福島第一原子力発電所 東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響について』,2011年.
2)東京電力,『福島第一原子力発電所 東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響について』(改定版),2012年.
3)「Report to the APS by the Study Group on Light Water Reactor Safety」,『Rev.Mod.Phys.』,Vol.47,Supplement No.1,Summer,1975.
4)西沢嘉寿成ほか,「軽水炉のシビアアクシデント研究の現状」,『日本原子力学会誌』,35巻9号,p.781,1991年.
5)2011年3月22日付朝日新聞朝刊.
6)2011年4月8日付朝日新聞朝刊.