秘密保持審査制度に違反した場合のペナルティ

 中国特許法第20条第1項の規定に違反した発明または考案は、中国での権利が付与されません(同条第4項)。これらの出願の方式審査時および実体審査時に本規定違反と判断された場合、その出願が拒絶されます。無効審判の審理で本規定違反と判断されると、その特許または実用新案登録が無効とされます。さらに、同法第20条第1項の規定に違反することによって国家秘密を漏洩した場合、刑事責任を問われる可能性があります(同法第71条)。

 これまでの説明を基に、冒頭の事例をあらためて検討してみましょう。Aさんは中国の拠点で現地の技術者と協力することで、新しい小型振動モータの開発しました。従って、小型振動モータに関する発明は中国で完成したものといえます。

 この発明について日本および中国で権利化を図り、かつ日本を第一国として出願する場合、日本で出願する前にSIPOに秘密保持審査を請求してその許可を受けなければなりません。AさんはSIPOに秘密保持審査を請求せずに日本で出願した場合は、中国特許法第20条第1項の規定に違反することになり、中国では権利化できません。

 近年、日本の企業では中国の子会社や関係会社と協力して研究開発を進めることが多く、それに伴って日本の技術者が中国で発明や考案を完成させる機会が増えています。従って、技術者は中国の秘密保持審査制度を十分に理解し、知財部と連携を取りながら中国で完成させる発明または考案の管理に留意する必要があります。せっかく良い発明をしたにもかかわらず、中国の特許制度に関する知識不足のために中国での権利化を断念せざるを得ないのは、もったいない話です。

 最後に、秘密保持審査が請求された発明または考案について外国への出願が許可されたものの割合(許可率)のデータを紹介します。SIPOの統計によると、2009年10月~2011年9月にSIPOは約7万6000件の秘密保持審査の請求案件を審査しましたが、書類不備などの理由で秘密保持審査請求が提出されないと見なされたものは87件、外国への出願が許可されなかったものは1件のみで、許可率は99.9%でした。通常の発明または考案であれば、ほとんどが問題なく外国への出願を許可されるということが分かります。