韓国だけではなく,中国や米国も大きなライバルとして急浮上している。特に,中国は急成長する内需に支えられ,独自のLiイオン2次電池市場を形成しそうだ。自動車の年間販売台数は1200万台と,世界一の米国と肩を並べるほどにまで成長した。さらに,北京市や上海市など大都市部で進む環境政策によって勃興した2000万台以上の電動バイク市場など,中国の電池メーカーを大きく育成する市場が内需として存在する。

 中国発の低コストなLiイオン2次電池が,世界市場を席巻する可能性も指摘されている。というのも,中国の電池メーカーの多くがリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を正極材料に用いて量産を進めているからだ。Liイオン2次電池で最もコストが高いのが正極材料である(図7)。現在,日本や韓国の電池メーカーは高容量化をにらみ,CoとNi,Mnから成るいわゆる3元系材料の利用を目指している。これに対して中国メーカーは,これまで主流だったコバルト酸リチウム(LiCoO2)に比べて材料価格が約1/10と格段に低いLiFePO4を用いようとするところがほとんどだ。

図7 正極材料のコストが高い
正極材料にCoとNi,Mnを用いた,いわゆる3元系の電池セルでは,正極材料のコストが3割以上を占める。図は,Deutsche Bank Securities社の資料を基に本誌が作成した。
[画像のクリックで拡大表示]

 しかも,「製造歩留まりは20~30%と低いのではないか」(あるLiイオン2次電池関係者)と見られているにもかかわらず,中国メーカーは確実に収益を上げている。大手電池メーカーであるBYD社は,2010年に1000MWh,2012年に4000MWhと,生産能力を急速に拡大するとみられている。「製造設備はすべて最新の日本製」(電池関係者)との話もあり,生産性を向上すれば,間違いなく国内メーカーの脅威となろう。

 一方,米国はObama政権の政策として,材料から最終的な電池パックまですべてを自国で生産する方針を打ち出した。興味深いのは,米国内で生産するのであれば,海外メーカーでも融資を受けられる点である。電池メーカーでは,LG Chem社やフランスSaft社などが現地法人を介して融資を受けている。日本のメーカーでは,戸田工業が助成を受けて正極材料の量産を開始するほか,日産自動車が米国政府から補助金を別途受けてLiイオン2次電池の生産工場を建設する予定だ。

 残念ながら,日本の電池セル・メーカーが進出するという話は,今のところない。海外に製造拠点を持つことにリスクがあるとして,敬遠しているためだ。ただし,現地調達が基本の自動車産業で採用を拡大しようとすれば,米国現地での製造が,いずれは必須となるだろう。

 米国の政治的な戦略は,これだけにとどまらない。2009年11月,米国は中国とエネルギー分野において国家間で包括的な協力関係を結ぶと発表した。電気自動車の利用促進や再生可能エネルギーの導入利用などで共同作業を始めるという。

 このうち電気自動車の利用促進については,規格の共同開発や実証プロジェクトなどを進めるほか,再生可能エネルギーでは,次世代電力網「スマートグリッド」の戦略を策定する予定だ。

 日本ではエネルギー分野に関する総合的な政策は乏しく,他国との連携もほとんどない。巨大市場である米中にこの分野で戦略的に取り組まれた場合,日本メーカーの入り込む余地はますます狭まりそうだ。