あらためて、日本の製品が世界で評価された大きな理由を考えてみたい。それは、圧倒的に高品質の製品を高い生産性で(従って安価に)提供したことである。では、なぜこうした製品が造れたのか。その根底にあるのは日本的経営である。

 筆者は、1980年代後半にGM社といすゞ自動車の合弁企業である英IBC Vehicles社の経営陣に加わった際、日本的経営とは何かを徹底的に考えてみた。このときの経営課題は、英国の自動車メーカーの工場を買収して再生し、小型商用車を生産するというものだった。既存の工場の買収だったため、当然のことながら、既存の5つの労働組合をそのまま引き継がざるを得なかった。

 GM社は米国で全米自動車労働組合(UAW)との関係の中で、多くのストライキを経験しており、ある意味ではストライキ慣れした企業だった。これに対し、当時のいすゞ自動車には海外工場で労働問題に対処するノウハウは皆無だった。

 海外における合弁会社の設立に当たっては、安定した生産活動が可能な労使関係を、いかにして確立するかが重要な課題の1つだったのである。当時の英国では、労働党政権が長く続いたことによる弊害から国民は保守党政権を選び、サッチャー首相の下で労働法の改正が進んでいたが、依然として「ストライキの国」というイメージが強かった。

 そのような状況下で、当時のいすゞ自動車経営陣から筆者に出された指示の1つが、「英国の地で日本的経営を実現せよ」だった。日本的経営が実現できれば、日本と同じ品質を、日本と同じ生産性で達成できるはずと考えたのだ。しかし、日本的経営とは何かが分からなければ、実現しようがない。

 多くの人と議論する中でようやくたどり着いた日本的経営の定義が、「経営活動の各分野で、常に改善活動可能な労使関係を実現すること」というものだった。そして、このような労使関係を自社だけではなくサプライヤーにも広げることができれば、日本に近い経営を行える環境が実現できると考えた。

 この、常に改善活動可能な労使関係こそが、日本の工場が高品質の製品を高い生産性で造ることができる最大の理由にほかならない。ところが、この点に気付いていない日本企業はあまりに多い。