「乾杯!」
「いやー,お疲れさま。無事に発表会が終わってホッとしたね。さあ,飲んで飲んで」
2008年10月21日。キングジムは,文字入力に特化した携帯機器「ポメラ」の最初の機種となる「DM10」の発表会を開催した。
DM10の発表会終了後,キングジム本社のすぐ近くにある中華料理店でささやかな“打ち上げ”が開催されていた。ものすごくおいしいというわけではなかったが,会社から近く,1皿300円と安いのが魅力だった。集まったのは,開発担当者や広報担当者などの関係者,総勢15人ほど。中華料理店の2階を貸し切って開催した。
ネットで書き込み続々
「遅れてすいませーん」
打ち上げが始まって程なく,広報担当者の一人が遅れて駆け付けた。発表後のマスコミ対応をしていたのだ。席に着くのもそこそこ,広報担当者は切り出した。
「すごいことになってますよ!」
「どうした?」
「インターネットの掲示板に,DM10のスレッドができてるんです。書き込みも増えてます」
「掲示板にスレッド?」
DM10開発の陣頭指揮を執った亀田登信(現 開発本部 電子文具開発部長 兼 一般文具開発部長)は,早速ノート・パソコンを立ち上げ,掲示板をチェックし始めた。確かに,DM10のスレッドができ,書き込みが続々と増えている。
「DM10のスレッドが立ってるんですか?」
亀田のパソコンをのぞき込んだ開発者の一人である立石幸士(現 開発本部 電子文具開発部 開発二課 リーダー)にとって,自分が開発した商品のスレッドができるのは初体験だった。世の中に受け入れられたという,うれしさがこみ上げてきた。そうするうちにも,どんどん書き込みが増えていく。
涙の電話
「これは大変だ」
亀田は,直感的にDM10のヒットを予感した。立石ら,現場の開発者のこれまでの苦労を直接見てきただけに,彼らの苦労が実ったことが本当にうれしかった。亀田の目からは自然と涙がこぼれた。
「おまえたち,よくやったぞ。おい,中国に電話だ」
DM10の製造を委託していた中国の深センには,開発者の一人である佐久間学(現 開発本部 電子文具開発部 開発二課 リーダー)らが量産前の最後の確認のために駐在していた。
「佐久間,やった,やったぞ!」
最終確認を終えてホッとし,深センのスーパーマーケットで夕食の買い出しをしていた佐久間の携帯電話機に突然,泣きながらハイテンションで話す亀田から電話がかかってきた。もちろん佐久間には,何がどうなっているか,さっぱり分からない。ただ,何だかとても盛り上がっていることだけは伝わってきた。