加えて,最近はCAEソフトウエアやパソコン/ワークステーションなどのハードウエアの進歩で,CAEモデルの作成や解析作業そのものは比較的短時間で処理できるようになった。3次元CADモデルがあれば,簡単な問題なら数分で解析結果を得られる。近年「設計者向けCAE」と呼ばれるソフトの充実も目覚しい。3次元CADと連携しているものも多く,3次元モデルの作成後,簡単にCAEの作業に入れるような機能が提供されている(図4)。

図4●3次元CADと親和性の高い設計者向け解析ソフト
3次元CADにアドオンするタイプとしては「CATIA V5」(仏Dassault Systemes社)向けの「SimDesigner for CATIA V5」(米MSC.Software社)(a)や,「SolidWorks」(米SolidWorks 社)にアドオンする米COSMOS 社の「COSMOSWorks」(b)が代表的。このほか,3 次元CAD から起動する米ANSYS 社の「DesignSpace」などもある(c)。

 しかし,ソフトウエアの数や機能が増え,多種多様な業界がCAEを導入しているにも関わらず,設計者がCAEを使いこなしている企業は少ない。設計部門に導入していても,ユーザーは限定的なのが現状だ。

 その原因の一つには,忙しい設計者にとって,従来の作業に加えてさらに解析作業に取り組む時間的な余裕がないということが挙げられる。そしてもう一つの大きな要因は,CAEの精度をどのようにして保証するか,つまり設計者がCAEを正しく使って,妥当な結果が得られるのかという問題である。

基本を知ればミスは防げる

 精度を確保するには,大きく2通りのアプローチがある。一つは,設計者のCAEへの理解度を高めること。CAEの基本的な考え方を理解し,ソフトウエアをうまく使いこなせば,的外れな結果が出ることはない。

 もう一つは,ミスをなくすために解析方法を標準化してしまうやり方である*2。定型的な解析ではこうした方法が有効だ。ただし,これはその企業ごとにその内容やレベルが異なるため,本稿では前者の設計者がCAEソフトを使いこなすためのポイントについて考えてみる。/

 まず,3次元CADがあることを前提に,CAEのプロセス振り返ってみよう。おおよその流れは(1)3次元CADによる形状作成(2)3次元CADデータをCAEソフトに読み込むために必要なCADデータの修正(3)3次元CADデータのCAEソフトへの読み込み(4)3次元CAD形状を基にしたメッシュ分割(5)境界条件設定(6)計算実行(7)結果処理(8)結果判断―となる(図5)。

図5●解析のプロセスフロー
解析プロセスの中でも「メッシュ分割」「境界条件設定」「解析結果評価」は設計者がミスを犯しやすい

 この中で,特に設計者が間違えやすいのは(4)のメッシュ分割と(5)の境界条件設定だろう。(8)の結果判断にも技量が求められる。

 だが,難しく考える必要はない。設計者が犯しやすい間違いのほとんどは,CAEの基本的な考え方を理解していないことに起因している。まずは,メッシュ分割と境界条件設定,結果判断の三つのステップにおける要点を把握しておけば,計算結果のどこに注意すべきか,結果がおかしな場合には解析モデルのどこを修正すべきなのかが分かるはずだ。

メッシュで変わる計算結果

 一つ目のメッシュ分割について言えば,CAEの初心者は,メッシュ分割の仕方によって解析結果が異なることを認識していない場合が多い。評価したい部位のメッシュの大きさを少し変えるだけで答えが変わることを認識していないために,適当にメッシュを切り,評価値を間違ってしまう。

 昨今は,設計者向けCAEソフトなどによって,メッシュ分割作業は以前に比べればかなり簡素化された。多くのCAEソフトは自動メッシュ分割(オートメッシャ)機能を備えており,こうした作業を設計者に意識させないような仕組みを整えているものもある。解析結果に応じて,メッシュを自動で再分割するなどさまざまな手法も採用されている。

 しかし,その便利さ故に,メッシュの大きさや形状に対する配慮という本来知っておくべきCAEの基本がなおざりにされている。その結果,安易にメッシュを切るということから生じる間違いが依然として多い。