設計者が使ってこそ本領発揮

図3●CAE懇話会の様子
図3●CAE懇話会の様子
CAE普及に向けたユーザーの動きも活発化している。筆者も所属するNPO「CAE懇話会」では,月例定例会のほかCAEベンダーとも協力して技術講習会などを開催している。

 CAEの活用で最も成功しているのは自動車業界だろう。ここ20年間で開発期間を30~50%短縮,数回必要だった試作を1回で済ませられるまでになっている。大幅な開発期間短縮のすべてがCAEによるものではないにせよ,大規模な衝突解析や音響・振動解析などが開発期間・コスト削減に大きく寄与しているのは事実だ。

 ただし,自動車業界に限らず,一般には専らCAEの専門家と設計者で開発業務を分業している企業が多い。CAEの専門家は文字通りCAEに熟知した人物で,設計者が意図する課題を評価するためのテクニックと判断にはたけている。しかし,設計者と十分なコミュニケーションがとれているか設計者と同等の製品知識がない限り,依頼された範囲内でしか解析できない。

 一方,設計者は,担当する部品・製品のことをよく知っており,周囲の部品との関連も十分把握している。周辺部品を設計している他の設計者とも,連絡し合って設計を進めており,さまざまな懸念事項や提案事項にも,周囲と相談しながら的確に対応できる。

 しかも,設計者は開発プロセスの中でも(1)開発企画(2)設計(3)デザインレビューといった最上流の工程を担っている。CAEの専門家に解析作業をすべて任せ,そこで必要となる情報をやりとりしたり,情報伝達不足で十分な解析結果が得られなかったりすることを考えれば,設計者が自らCAEを実施した方が良いことは自明といえる。

 多くのCAEの専門家を抱える自動車業界でさえ,今後のさらなる開発期間の短縮や設計上流での品質の作り込みの進展により,CAEの専門家が不足するとみられ,設計者自らが解析する必要性に迫られている。

 近年,CAEの専門家ではなく,設計者が解析する体制の確立を課題とする企業が増えているのはこうした事情からだ。筆者が所属するNPO「CAE懇話会」でも,定例会や講習会などを開催してCAE技術の普及と効率的な活用方法の推進を手伝っている(図3)。設計者を対象とした初心者向けの講習会も開いている。

 実際に,図1で示したような解析は,従来は社内のCAE専門家に依頼して実施していたが,設計者向けの構造解析ソフトを導入したことで,今では設計現場での解析が可能となった。現場で「必要なときに必要な解析」を実行できるのだ。