堀埜氏がたたき込まれたのは,「コストは『技術』でしか減らせない」という考え方だ1)。何も最先端技術である必要はない。「文書など何らかの媒体で表現でき,それを見た人間が再現できるもの」であれば,それを技術と呼ぶ。ちなみに,再現ができないものは「技能」と定義している。この考え方は,エンジニアリング部にも息づいている。

1)荻原,「技術で数字を動かす」,『日経ものづくり』,2010年1月号,pp.4-6.

 エンジニアリング部の役割は,ある作業に対してその時点で考え得る「最短の作業手順」を開発し,全店に展開することだ。

 同部が最短の作業手順を考えるとき,優先して取り掛かるのが「固定作業」である。固定作業とは,毎日の営業で必ず一定の割合で発生する作業のこと。カイゼン活動をするとなると,得てして工数が急激に上昇するピーク時の作業カイゼンを先に手掛けたくなるが,「ピーク時よりも固定作業を削減した方が業績にもろに効く」(堀埜氏)。例えば,固定作業の1つである「開店前準備作業」の時間を減らせば,営業活動に支障なく,その分の人件費を減らせるわけだ。(図5

図5●開店前準備作業のカイゼン事例
開店前準備の大半が掃除に費やされる。そのうち,最もムダが多いと考えたのが掃除機がけ。従来は,通路を掃除機がけしてから,さらにモップでふいていた。しかし,大きなごみは日ごろ,スタッフが拾っているため,開店準備のときはほとんど大きなごみは落ちていない。そこで,通路の掃除はモップがけのみとし,掃除機がけは必要な部分だけにした。モップそのものも,手元のボタンを押せば水が供給されるタイプのものに変更し,わざわざ水気を補いに行く手間を省いた。こうしたカイゼンの結果,開店前準備作業にかかる時間は60分から30分に半減できた。
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 さらにもう1つ,同部のこだわりは「ハードの機能分析から始める」こと。その具体的内容を,開店前準備作業のカイゼン事例で見ていこう。

機能分析で「見える」目的

 これまで開店前準備の大半の時間は,フロアに掃除機をかけることに費やされていた。かけるのは,通路やテーブルの下,トイレや入り口などほぼすべて。その後,さらに通路をモップがけし,ふきんで台の上をふき,さらに駐車場のごみ拾いや入り口の窓ふき,パーティションのほこり取りなどを実施する。大まかな作業手順は決まっていたが,実際には店舗によって,あるいは作業スタッフによってやり方がバラバラだったという。群馬県にある前橋インター店では,この一連の作業に1人が1時間をかけて実施していた。