決済アプリは本体に格納へ

 Apple社はiPhoneへのNFCの搭載を正式には表明していないが、周辺情報を総合すると近い将来対応してくると見て間違いない。iPhone上でpayWaveやPayPassのアプリが動作することを想定した場合、Apple社のアプリ・マーケットである「App Store」からiPhoneにpayWaveやPayPassの基本設定を行う「基本」アプリをダウンロードし、その基本アプリを起動して金融機関などの登録情報を設定し利用開始する、という方式になると想像される。その際に基本アプリや登録情報などのデータを格納する先はSIMではなく恐らく、iPhone本体になるはずだ。

 SIMに書き込むようにすると、携帯電話事業者との交渉が必要になるため、Apple社にとってサービスの自由度が減ってしまう。iPhone本体に決済アプリを置ければ、Apple社の意志だけですべてのサービスを規定できる。これは携帯電話事業者にとっては、モバイル・ペイメントの支配権をApple社に渡すことになる。そうならないために、携帯電話事業者がiPhoneの扱いをやめればいいわけだが、iPhoneの人気を考えれば、そのような選択肢は取れないだろう。

 Google社はもう少しオープンな姿勢を取る。2010年末にGoogle社が発売したNFCを搭載した初めてのAndroid搭載スマートフォン「Nexus S」(韓国Samsung Electronics社製)では、Google社自身が決済用のアプリなどを格納できる領域を本体側に用意する一方、携帯電話事業者がSIMカード内にそうした情報を格納できるような形態にした。今後、NFC搭載のAndroidスマートフォンが、携帯電話機メーカー各社から投入されるのは確実だ。その際、Nexus S同様に本体にGoogle社の領域、SIMカードに携帯電話事業者の領域を用意する形は踏襲されると推測される。

 今後、Google社が自由に利用できる本体内の領域を使って各種モバイル・ペイメント・サービスを展開してくるのは確実である。携帯電話事業者の立場に立てば、Google社とサービス競争をしなければならなくなる。正直なところ、この勝負で携帯電話事業者に勝ち目はないように思える。

Google がGoogle Walletを発表

 本体内に格納した決済アプリでNFCペイメントのサービスを始めるというGoogle社の動きは既に顕在化し始めている。2011年5月にGoogle 社がNFCを使ったペイメント・サービス「Google Wallet」 を発表したのだ。まずは、Nexus Sの本体に決済アプリを提供する形でサービスを行うが、将来は先に述べた各社のNFC搭載Androidスマートフォンでも展開することになるだろう(Google WalletについてのTech-On!の関連記事)。

 Google Walletを一言で表すならGoogle版の“おサイフケータイ”である。Android搭載スマートフォンにPayPassアプリを搭載し、米国などで既に展開が進むPayPass加盟店(非接触対応決済端末設置済み)でプラスチック・カードの代わりに、スマートフォンで支払うことを可能にする。PayPassアプリを発行するのは米Citibank社である。Google Walletではクーポンもアプリ内に格納でき、支払いの際の割引を受けられる。このように、Google社は携帯電話事業者が携帯電話機メーカーと紛争して勝ち取った「ペイメントアプリはSIM領域に」という業界ルール(利権)をいとも簡単に破ってしまったのである。