投資ラッシュのTSMC

 ファウンドリー企業は,さらなる攻めに出る。ファブライト化を進める国内半導体メーカーなどを尻目に,2010年以降,従来の2~3倍の額の大規模な設備投資を敢行する方針を打ち出した(図4)。

図4 ファウンドリー企業が一斉に投資のアクセルを踏む
2010年以降,TSMC(a),GLOBALFOUNDRIES社(b),Samsung Electronics社(c)などが設備投資額を急増させる。
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 2010年に48億米ドル以上と,過去最高額の設備投資を実施するのがTSMCである。この金額は,論理LSI向けとしては米Intel Corp.と並んで,半導体業界で最も高い水準になる。TSMCの売上高はIntel社の1/3程度にもかかわらず,Intel社とほぼ同額の設備投資を行う。

 TSMCは,2010年の設備投資額をさらに上乗せする可能性がある。2010年4月に,28nm世代以降の旗艦工場となる「Fab15」を台湾の台中に建設する方針を発表した。「20nm,14nm,10nm,7nmまでの世代を見据えた戦略拠点とする」(同社)という。

 怒涛の投資攻勢を続けるTSMCに引き離されまいと,競合他社も追随の一手を繰り出している。例えばGLOBALFOUNDRIES社は,2010年の設備投資額を2009年比で約3.4倍の27億米ドルへと急増させる。

 Samsung社も動いた。2010年5月17日に2010年の設備投資計画を発表し,約2兆ウォン(約1600億円)をファウンドリー事業を含むSoCの生産に投じる計画を明らかにした。「勝つつもりでファウンドリー事業を展開する」(同社)という。

2009年夏に突如風が吹く

 TSMCやGLOBALFOUNDRIES社などが雪崩を打ったように巨額投資に踏み出した背景には,中国市場が牽引する世界的な需要拡大がある。「2009年夏に突然,機器メーカーやODM企業が部品の発注量を急増させた」(国内の民間調査機関)という。

図5 2009年夏ごろからノート・パソコンの出荷台数が急増
ノート・パソコンを手掛ける大手ODM企業であるCompal Electronics社とQuanta Computer社の月別のノート・パソコンの出荷台数の推移を示した。
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 実際,世界のノート・パソコンの製造を寡占的に手掛ける台湾Compal Electronics,Inc.や台湾Quanta Computer,Inc.は,2009年夏以降,ノート・パソコンの出荷台数を大幅に増やしている(図5)。2010年3月の出荷台数は,Compal社が対前年同月比68%増の約420万台,Quanta社が同52%増の約410万台である。

 出荷台数がケタ違いに多い携帯電話機市場も,2010年には着実に拡大しそうだ。携帯電話機メーカーや部品メーカー,調査機関の予想を総合すると,2010年の世界市場は,対前年比10~22%増の12億4000万~13億8000万台に落ち着きそうだ。

 薄型テレビの世界出荷台数も「2010年度に対前年度比30%増の約2億2000万台に増える」(村田製作所)と,強含みにとらえる向きが多い。