「ガラスの研磨剤として使われているセリウム(Ce)は、資源量が豊富で安価だから使っていただけという側面がある」。こう指摘するのは、東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)副センター長の小澤純夫氏だ。ところが、5年間で2倍にも上昇していなかったCeの価格が2010年の夏、約1カ月で4倍に高騰。さらに同年秋には、入手困難な状況に陥った。

 一時的とはいえ、Ceの供給が途絶えると、それを使っていたものづくりが大きな危機に曝された。液晶パネルやHDDなどに不可欠なガラスの研磨を手掛ける、ある工場では、「2010年9~11月までCeの輸入が止まったことで研磨剤が入手できなくなった。在庫を吐き出しつつ何とか対応したものの、もしあと1~2カ月輸入停止が続いたら、生産が停止した恐れがあった」。

 特に「Ceやランタン(La)などの軽希土類は、ベースメタルなど他の鉱物の副産物、いわゆる余りものという甘い認識が日本では強い」〔メタルリサーチビューロ(本社東京)国内代表の棚町裕次氏〕。ここに落とし穴があった。いつでも手に入ると思い込み、高性能磁石を構成するのに欠かせないネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)などと違って、多くの在庫を持たなかったのだ。そのため蛇口を絞られると、途端に窮地に立たされてしまう。この先も、「日本国内におけるCe需要の30%が不足するという見方がある」(立命館大学理工学部機械工学科教授の谷泰弘氏)ように、「余りもの」と侮っていると痛い目に遭うかもしれない。

 Ceに限らず、コストパフォーマンスを最大化できる材料を使うのは当然の行為だ。しかしその材料、とりわけ希少とされるレアメタル*1に関し、手に入らなくなった事態を想定しないまま、それに頼り切っている状況は看過できない。

*1 レアメタル これは日本の呼称。海外では「Critical raw Materials」や「Critical Minerals」などと呼ばれる。

微量であっても深く広く

 レアメタルは、「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属のうち、現在工業用需要があり今後も需要があるものと、今後の技術革新に伴い新たな工業用需要が予測されるもの」と、日本では定義されている(図1*2。要は、レアメタルとは日本のものづくりにとって欠くことのできない重要な資源の総称である。

*2 正確には1984年、通商産業省(当時、現在の経済産業省)の鉱業審議会レアメタル総合政策特別小委員会で定義された。

図1●レアメタルの定義
埋蔵量が多くとも、抽出が困難な金属も含まれる。手に入れにくさに加えて、今後の工業用需要についても加味したのがレアメタルだ。なお、レアメタルを31鉱種と呼ぶ際には、スカンジウム(Sc)およびイットリウム(Y)、ランタノイド(15種)のレアアース(希土類元素)を1鉱種と数えている。
[画像のクリックで拡大表示]

 日本におけるレアメタルの市場規模は、2008年度で約3兆円に達する(輸入通関統計より)。この金額自体も小さくはないが、レアメタルが使われている製品の市場規模となると相当大きくなる。同じく2008年度で、例えば電子材料が9兆円、電子デバイスが47兆円、セット機器が141兆円といった具合だ。電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などのエコカーや太陽電池、低燃費の高性能航空機が普及すると、「レアメタル関連の産業規模は、現在の実に10倍以上に膨らむ」という予測もある。

 このように日本の製造業が得意とする先進的な製品の多くで、その付加価値を高めるためにレアメタルが多用されている。もう少し具体的にみると、前述したNdやDyは、モータの小型化/軽量化に貢献する高性能なネオジム・鉄・ボロン(Nd-Fe-B)系磁石に利用される。Ndは合金を構成する主たる元素、Dyは耐熱性を高める(高温時の保磁力を維持する)添加元素である。優れた性能を持つNd-Fe-B系磁石はHEVやEVにとどまらず、エアコン室外機の圧縮機や携帯電話機の振動モータなどに幅広く利用されている。

 例えば、HEV/EVでは1台当たり約1~2kgのNd-Fe-B系磁石がモータに使われており、その質量の約20%はNd、約10%はDyといわれる。2010年12月発売の日産自動車のEV「リーフ」でも、「小型軽量という性能面から、モータにNd-Fe-B系磁石を採用している」(同社のモータ技術者)。大ざっぱに計算すれば、EVもしくはHEVを1万台生産するには、1~2tのDyが必要となる。

使わずにはいられない