COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

最終回:白い対向車

中山 力=日経ものづくり
2011/06/23 00:00
出典:日経ものづくり、2007年8月号 、pp.197~201 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
印刷用ページ

【前回のあらすじ】レクサスブランドのフラッグシップである「LS」の,さらにフラッグシップとして位置付けられるクルマが高性能パワートレーンを搭載した「LS600h」と,そしてロング・ホイールベースとした「LS600hL」である。高性能パワートレーンとして5.0LのV型8気筒エンジンと高出力モータを組み合わせたハイブリッド・システムを搭載し,その大出力を4WDによって確実に路面へと伝える。4WDはさらに,走行安定性を高めると同時にエネルギ回生の効率も高めた。チーフエンジニアとして開発を任された定方理は,LSに求められる最高品質の静粛性を実現するために最後の仕上げに取り掛かった。

 深夜のトヨタ自動車構内を,1台のクルマが人の歩行速度と同じくらいゆっくりとした速さで進み出す。高性能パワートレーンとしてハイブリッド・システムを搭載した「レクサスLS600h」の試作車だ。その助手席に乗るのは定方理。レクサスLS全体のチーフエンジニア(CE)を務める吉田守孝から,レクサスブランドの最高峰に位置付けられるLSハイブリッドの開発を任されたその男は,2006年夏から予定されている量産試作を数カ月後に控え,最後の試練に挑んでいた。その試練とは,「音が聞こえないこと」が絶対条件とされる静粛性の実現である。

「何だ,この音は」

 闇の静寂の中で定方が耳にしたのは,ウー,ウーというあたかも幽霊のうめき声のような音。隣の運転席に座る技術者に言われなければ,聞き逃してしまいそうなかすかな音だった。

「実は,ジェネレータの音なんです」

「ジェネレータ?」

「ええ,ジェネレータの回転数は車速によらず負荷に応じて変動しますから,それでこんな音が出るんじゃないかと考えてます」

「あり得るな。それにしても,よく気が付いたなぁ,こんな小さな音に」

「一度気付くと,どうにも気になっちゃいまして」

 定方も同じだった。いったん聞き取れてしまった今となっては,妙に耳につく。しかし音圧レベルにすれば,おそらく10dBにも満たないほどの微妙なノイズ。果たして,このかすかな音がLSの静粛性を落とすことになるのか,定方には正直よく分からなかった。

「定方さん,どうします?」

「気にならないといえば気にならないし,気になるといえば気になるし。難しいなあ,これは。しかし仮にだ,対策するとして,何か妙案はあるのかなあ?」

「いえ,それがまだ…」

「そうだよな,確かに簡単な問題じゃなさそうだ。分かった,少し持ち帰って考えさせてくれないか」

「了解しました。ただ,定方さん,このままではLSとはいえないと思います」

「音が聞こえないこと,それこそがLSに求められる静粛性ってことか」

「はい」

 定方の耳には幽霊音に代わって,隣に座る技術者のきっぱりとした返事だけが残った。

「それでこそLS」

ここから先は日経テクノロジーオンライン会員の方のみ、お読みいただけます。
・会員登録済みの方は、左下の「ログイン」ボタンをクリックしてログイン完了後にご参照ください。
・会員登録がお済みでない方は、右下の会員登録ボタンをクリックして、会員登録を完了させてからご参照ください。会員登録は無料です。

マイページ

マイページのご利用には日経テクノロジーオンラインの会員登録が必要です。

マイページでは記事のクリッピング(ブックマーク)、登録したキーワードを含む新着記事の表示(Myキーワード)、登録した連載の新着記事表示(連載ウォッチ)が利用できます。

協力メディア&
関連サイト

  • 日経エレクトロニクス
  • 日経ものづくり
  • 日経Automotive
  • 日経デジタルヘルス
  • メガソーラービジネス
  • 明日をつむぐテクノロジー
  • 新・公民連携最前線
  • 技術者塾

Follow Us

  • Facebook
  • Twitter
  • RSS

お薦めトピック

日経テクノロジーオンラインSpecial

記事ランキング