自治体が企業の誘致に躍起
上海経済圏の成長の牽引役となっているのは,網目状に構築された高速道路や,一部で日本の新幹線の車両をそのまま使った高速鉄道網,そして同地域に多数ある工業団地群である(図3 )。
高速鉄道は2000年代初頭に導入され,現在は最高時速250kmで運行されている。現在,北京と上海をつなぐさらに高速の「京滬高速鉄道」†を敷設す る工事が進んでいる。上海─南京間は,2010年7月1日に営業運転が始まる。運行速度は最高時速350km。これにより,上海─蘇州間は約20分,上海 ─南京間は約1時間半で結ばれることになる注5)。
†京滬高速鉄道=北京と上海を約5時間で結ぶ予定の,全長1368kmの高速鉄道。京は北京,滬は上海を意味する。敷設工事は2010年末に終了。全面開通は2011年の見通しである。
注5) このほか,2010年10月1日には,上海─杭州間にも新たに「滬杭高速鉄道」が開通する予定。所要時間は従来の約1時間半から38分に短縮される。
工業団地群の多くは,この高速鉄道網に沿う形で広がっている(表1)。これらは,国や省,市などの各自治体が国内外から企業を積極的に誘致して形成され たものだ。工業団地群の中には,1990年前後から拡大を続けて,今では参加企業が1000社を大きく超えるものもある。
各自治体のWebサイトを見ると,誘致の実績を競うように公開している場合が多い。大手企業をどれだけ誘致したかが,仕事の実績として評価されるため,自治体の幹部が誘致に躍起になっている様子がうかがえる。
工業団地群のメーカーの国籍はさまざまだが,工業団地ごとに似た業種の企業が集められている場合が多い。例えば,上海市街地の北西部にある 「Shanghai Jiading Industrial Zone(上海嘉定工業区)」では,ドイツVolkswagen社,日本のマツダなど自動車関連のメーカーが多い。一方,江蘇省の蘇州には,ソニーやパナ ソニック,韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.などエレクトロニクス関連のメーカー,同じく南京市郊外の工業団地には,ソフトウエア関連の企業が多く集まる。浙江省の杭州では通信機器 関連のメーカーが多い。
「シリコンバレー」が3カ所
上海経済圏を通じて,とりわけ急激に市場が拡大しているのが,半導体産業である。2007年の上海経済圏内での半導体産業の市場規模は930億5000 万元(約1兆4000億円)。2006年比で35.1%拡大した。最近,外資系企業が人件費の高騰などを理由に上海から内陸の西安市などに半導体工場を移 転させる動きが一部にあるものの,金額ベースの市場規模では,中国の半導体産業の約3/4がこの上海経済圏に集中している(図4)。
実際,上海経済圏にはいくつもの「硅谷(シリコンバレー)」がある。代表的なのは上海市の浦東国際空港近くにある「浦東硅谷」,無錫市郊外の「太湖硅谷」,杭州市郊外の「天堂硅谷」などだ。
特に,「Shanghai Zhangjiang Hi-Tech Park(上海張江高科技園区)」とも呼ばれる浦東硅谷には,上海経済圏の中でも群を抜いて多くの半導体メーカーが集まっている。
太陽電池製造で急伸
今,その上海経済圏の半導体産業には大きな変化が起こっている。米国のシリコンバレーの企業が半導体チップから太陽電池など環境技術に重点を移しつつあ るのと同様に,多くの半導体メーカーが太陽電池の製造に軸足を移し始めた点だ。部品メーカーなども含めると,太陽電池関連だけで既に400社近いメーカー がこの上海経済圏に集まっている。
例えば,中国最大の太陽電池メーカーSuntech Power Holdings Co.,Ltd.(尚徳)は,無錫の工業団地に本社を構えている。同第3位の中国JA Solar社(晶澳),および非常に低コストで薄膜Si太陽電池を製造する中国QS Solar Inc.(強生)は,本社をいずれも上海市内に,工場は揚州市,南通市や蘇州市郊外などに設置している。2012年に1GW規模の太陽電池を製造する予定 の中国Guodian Jintech Energy Co.,Ltd.(中国国電)は,太湖西岸の宣興市に居を構える。
この地域に注目するのは,中国メーカーだけではない。プラズマCVDの成膜装置とそれを利用して製造した薄膜太陽電池を開発・販売する台湾 Archers Inc.(精曜)は最近,上海経済圏に進出してきた。「上海周辺は,太陽電池の製造に必要な材料,製造装置,人材がそろっている」(Archers社のあ る技術者)ことがその理由という。