2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北・関東地方の工場にも大きな爪痕を残した。今後、こうした震災への備えを念頭に復旧を進めていくことになる。その際、狙い通りに機能するリスク対策とはどのようなものか。中越地震と中越沖地震の2度の震災を経験した富士ゼロックスマニュファクチュアリングに聞いた。(日経ものづくり)

 東日本大震災により被災されている皆様に心からお見舞い申し上げます。皆様の安全と健康、そして被災地の1日も早い復旧をお祈り申し上げます。

 当社新潟事業所は、2004年の中越地震と2007年の中越沖地震の2度にわたり、大地震を経験しました。地震が起きたのはいずれも幸いなことに休日で、一部工場は稼動していたものの、人への大きな被害は発生しませんでした。これら大地震から学んだのは、日頃の効果的な備えと万が一災害が発生した場合の「初期対応の早さ」が、その後の復旧作業および生産再開に大きな影響を及ぼすということです。

 特に2007年の中越沖地震では、3年前の中越地震から得た教訓を将来のリスク対策として愚直に徹底したことが、結果としてその後の復旧に大きく寄与しました。具体的には、防災対策本部における初期対応体制の確立、従業員の安否確認体制の整備、TPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式)練成による災害に強い生産体制づくり、などです。

 しかし、全てのリスク対策がうまく機能したわけではありません。中越沖地震は震源地が近かった上、中越地震に比べて影響も大きかったので、当時の社内耐震基準・措置では対応しきれず、物の転倒や落下が多数発生しました。さらに、ライフラインが長期にわたって不通になったことから、事業復旧や従業員の私生活にも想定以上の影響を及ぼしました。

 現在は、こうした反省点を新たな課題としてリスク対策を整備しています。さらに今後は、事業継続を実現するための計画(BCP)と、BCPを継続的に改善し維持管理するための経営管理プロセス(BCM)を充実させていく方針です。以下に、工場復旧と地域連携のポイントを列挙します。

<工場復旧のポイント>

(1)防災対策本部の迅速な立ち上げによる素早い初動対応
 安否確認や被害情報の収集など。緊急連絡網を整備し、それを紙で保管しておくことで(停電時対応)、初期対応がスムーズに進む。
(2)安心と結束力強化のためのライフライン整備
 工事業者の手配、仮設トイレの設置、備蓄品の活用など。
(3)飲料水や食料の確保
 食堂が営業できなくなるので代替供給手段を用意。
(4)親会社や関連会社、取引先からの人/物/金の支援
 情報インフラを初期行動基準に従って活用することで、スムーズな復旧が可能。
(5)設備やシステムの停止/起動に関する手順の整備
 システム起動手順の見える化(掲示板)、無人自動停止システムの導入、サーバー停止/起動訓練の実施など。
(6)TPS(トヨタ生産方式)による早期生産立ち上げ
 物流(定時・定ルート便)、軽量ライン、多能工化など。
(7)BCP(事業継続計画)の整備、見直しなど

<地域連携のポイント>

(1)地方自治体経由での被災地への支援物資(水、食料など)の寄付
(2)被災者への人的・物的支援および施設開放

<総括>

 災害時からの復旧では、やはり初動対応が明暗を分けるので、強いリーダーシップの下での素早い対応が求められます。加えて「自分たちの工場は自分たちで再開させよう」という強い信念(ただし安心と結束力が前提)、親会社や関連会社との連携による人的支援・代行生産支援などがお客様にご迷惑をかけないためのポイントだと思います。