(小谷 卓也)

CRTテレビの歴史は,日本の高度成長の歴史そのものである。1950年代に産声を上げたカラーCRTテレビは,1964年に開催された東京五輪を契機に普及が加速。現在までの国内総出荷台数は約3億台にも及ぶ。

そんなCRTテレビも,定年退職を迎えた団塊の世代のように,いよいよその役目を終えようとしている。国内では,液晶テレビやPDPテレビへの世代交代が急速に進み,2010年にはついにCRTテレビの出荷台数がゼロになると予測されている。2011年7月に控える地上アナログ放送の停波が,薄型テレビへの世代交代を強く後押しした格好である。

実はこのCRTテレビの引き際が,にわかに騒がしい状況になっている。不要となって家庭などから排出されたCRTテレビは,通常,「特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)」にのっとり,リサイクルされる運命にある。このリサイクルにおいて,大きな問題が生じているのだ。

2011年問題。これは世間では一般に,2011年7月に予定通りスムーズに地上デジタル放送に完全移行できるのかにかかわる問題を指す。これに加えて,CRTテレビのリサイクル問題が「もう一つの2011年問題」として家電業界や政府の関係者などの頭を悩ませている。「本当は華々しく引退の花道を飾るはずだったのに─」。CRTテレビに言わせれば,そんなところだろうか。

この問題は,機器開発の現場にとってリサイクルと正面から向き合う良いキッカケになる。例えば,CRTテレビで生じているような問題を,薄型テレビで再び起こさないようにするにはどうするべきなのか。そのために,機器開発の現場はリサイクルに対する意識を大きく変える必要があるかもしれない。

決してこれは,テレビに限った話ではない。あらゆる機器でリサイクルを考慮することが欠かせなくなっている。リサイクルへの取り組みで先行することは,メーカーにとって,ひいては日本にとっての競争力向上にもつながる。