まずはバスとタクシーのEV化

 中国政府が電動車両の普及に躍起になるのは,世界で通用する自国の自動車メーカーを育てるためだ。これは,中国の悲願と言える。それにはEVは最適だと考えている。

 現在の中国自動車市場において,中国の自動車メーカーは「政府が当初考えていたほどには伸びていない」(中国に駐在する日本の自動車メーカーの担当者)のが実情である。同市場で目立つのは日米欧の外資系企業。ガソリン車開発では主役を張れる企業が世界中に多数存在し,政府の支援を受ける中国企業といえども,一足飛びには追い付けない。だが,EV開発では,現時点で主役と言える企業は世界でも少ない。これが中国政府には魅力的に映るのだ。

 今回,中国Tsinghua University(清華大学)にあるState Key Laboratory of Automotive Safety and Energyの主任で,同大学 教授のMinggao Ouyang(欧陽明高)氏が,中国政府の考える電動車両戦略について報告した。同氏によると中国政府はまず,公共交通機関を軸にした“官製”と言える EV市場を中国国内で立ち上げる方針だという。

 具体的には,バスとタクシーのEV化に注力する。これらは「規制などによって市や政府の意向を反映しやすく,EV化を進めやすい」(Ouyang氏)からだ。消費者に利便性を感じさせなければ普及しにくい一般車両は後回しにして,何よりも,世界に先んじてEVを普及させ,技術を磨くことを優先する。早期に普及すれば,現在各国がせめぎ合う充電インフラの標準化などでも優位に立ちやすくなる。

†充電インフラ=EVやプラグイン・ハイブリッ ド車に向けた充電設備のこと。住宅と同じ数 kWの電力を使う普通充電スタンドや,数十 kWの大電力を使う急速充電スタンドなどが ある。

 中国政府は,EVに向けた技術開発として今後5年間,蓄電池とモータ,これらの制御装置といった要素技術の開発に力を入れる。

 中でも注力するのが電池開発である。電池に関しては,中国国内での生産能力が2009年時点で900MWh以上のところ,2015年には電動車両の用途だけで数十GWh以上になるとみられている。これに電動車両だけではなく,電力網などに向けた定置用の用途を加えると,さらに膨れあがる見込みだ。

新興電池メーカーに注目集まる

 中国政府のこうした方針に,中国の電池メーカーが色めき立たないワケがない注2)。各社が自社の電池を搭載した電動バスを出展し,中国政府の方針に倣っていることを見せた(表1)。

注2) 電池メーカー以外でも,電動バスを各社 が出展した。例えばWuzhoulong(五州竜) 社は,2010年で2000台を生産したとする電 動バスを披露した(p.61の写真参照)。

表1 中国の電池メーカーが出展した主な電動バス
表1 中国の電池メーカーが出展した主な電動バス
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