素早い対応で早期に復旧

 被害が軽微だった以上に,操業の再開の速さには目を見張るものがある。大方のLSIメーカーが1~2日以内に再稼働した。競合メーカーなどから「最も被害が大きいのでは」と見られていた三菱の北伊丹製作所も順調に復旧し,2月13日以前にラインの一部が稼働した。装置・材料メーカーやLCDメーカーも長くて1週間の操業停止で済んだ。いずれも近隣にある関連企業や装置・材料メーカーの素早い対応が大きく寄写している。交通網の被害が大きい中,サポートできる部隊が近くにいることは早期復旧に大いに役立った。

 LSI関連では,NEC関西が地震発生の翌日の1月18日の16時半に復旧にこぎ着けた。近隣の関連企業や装置メーカーから,壊れた治具を早期に代替できたため。KTIが装置の位置ズレを数日で回復できたとするのも,装置メーカーの迅速な対応によると見られる。三菱にも,震災直後に複数の装置メーカーが近くの工場やサービス拠点から技術者を派遣する準備を整えた。

 材料メーカーでは,ウエーハ・メーカーである住友シチックスが1月23日には操業を全面的に再開したとする。「従来通りの出荷を続けられる」(同社)と言う。ほかの材料メーカーも1月18日には復旧したところが多い。ただ,交通網の混乱によって供給に多少の遅れを生じるところがある。装置メーカーは,同じく交通網の混乱などで社員の出社が遅れたとする住友金属工業が約1週間と長めの操業停止となった程度。装置メーカーは納品の間隔が長いため,この程度の遅れは取り戻せるとの見方が一般的である。

 LCD関連では,ホシデンが点検や調整のための4~5日間のライン停止だけで操業を再開した。再稼働後の立ち上げも順調に進んだとする。ただ,資材調達や出荷のための輸送手段がすぐに復旧できない問題があった。DTIは,震災翌日の午前中にラインを停止しただけで午後からは操業を再開した。出資元の東芝が輸送面をバックアップ,資材調達や出荷にほとんど遅滞を起こさずに済んだとしている。

「拠点を安易に動かすな」

 今回の震災によるLSI産業やLCD産業への影響は軽微だったが,災害対策はさらに強化が必要との見方が多い。この時,まず生産拠点や研究開発拠点をどこに置くかが問題になる。これには,安易に地震の少ないところに拠点を置くのではなく,「被災した場合に早期に復旧できるところを選ぶべき」(LSIメーカーの工場責任者)ということを,今回の震災の結果は示唆した。次に設置した拠点の地震対策をどう強化するかが問題になる。これに対して今回の震災はコンピュータ関連の施設が盲点になっていることを示した。

 まず拠点の設置場所に関しては,今回の震災の直後に大きな地震が発生しやすい日本にLSIやLCDといった基幹産業の拠点が集中することを「問題視する向きが海外に出た」(LCDメーカーの技術責任者)。特にLCDの工場はほとんど国内しかないため,この指摘の「矢面に立たされた」(上述の技術賞任者)。しかし今回の震災では,国内に生産拠点が集中していたために,破損した部品などを系列会社や装置・材料メーカーから融通できた。原料ガスなどの供給に関しても被災地の近隣に多くのガス・メーカーがあったためにLSIメーカーが素早く操業を再開できた。例えば,シャープ福山工場では大阪から原料ガスの供給を受けていたため,地震直後は供給が止まる懸念を抱いた。ところが名古屋からの供給に切り替えたため,「生産再開に当たってガス調達に問題はなかった」(シャープ専務取締役の井上弘氏)。