しかも,台湾半導体メーカに依存するのは,パソコン向けのLSIだけではない。台湾の半導体メーカの多くは,他社が設計したLSIの製造を手がける,いわゆるファウンドリである注6)。最近になって台湾のファウンドリが製造するLSIの用途は,パソコン以外に広がりつつある(図5 )。
「数年前までは,製造するLSIのほとんどがパソコン向けだった。いまではパソコン用は半分強に減り,残りは通信用や家電用である。たとえば,われわれが製造している米Xilinx,Inc.の製品は,米Cisco Systems,Inc.の通信機器が用いている。家電メーカでは,ソニーが大きな顧客だ」(UMCのHinnawi氏)。
インターネットの普及を背景に,通信機器や情報型家電製品の市場は今後急拡大すると見られている。台湾半導体メーカに対する需要は,しばらく落ち着かないだろう注7)。この傾向が当面続けば,価格の高どまりが収まらないばかりか,「安価に製造できる」という台湾メーカの特徴が失われるかもしれない。
注7)台湾の外にもシンガポールなどに,ファウンドリ・ビジネスを手掛ける企業はある。ただしいったん一つのファウンドリに製造を依頼すると,急にほかのファウンドリに乗り換えることは難しい。このため現在台湾で製造している製品が急激に海外に流出することは考えにくい。「設計会社とファウンドリの間には,時間をかけた交流を通して相互に培ったノウハウがある。1社でダメだったら他社に乗り換えるという性質のものではない」(チップ・セット・メーカ大手のVIA Technologies,Inc.,Marketing DirectorのRichard Brown氏)。同社の製品の8割以上は台湾TSMCが製造している。「今回の地震をキッカケに委託先を変更する気はまったくない」(同氏)。
未整備な電力インフラがネック
台湾産業のもう一つの弱点は,電力の供給が不安定なことである。この点でも,地震は潜在的な問題点を露呈したといえる。地震でなくても,同様な事態は起こり得る。たとえば1999年7月29日には,崖がけ崩れが原因で大規模な停電が生じている。
これらの問題の根は,台湾の電力インフラにある。「台湾の最大の問題点は,電力供給などのインフラが未成熟なこと」(台湾の情報産業政策に詳しい台湾 InteLink Corp.,Managing DirectorのJohn H. Isacs氏)。「電力インフラには,改善の余地がある」(TSMCのPawlik氏)。
台湾では北部で使用する電力の一部を,南部の発電所に依存している注8)。ところが,南部から北部へ電力を送る経路が脆弱ぜいじゃくである。送電線が断絶したときに,それをバックアップできる設備がない。7月の停電は,送電線を支える鉄塔の倒壊が原因だった。
注8)台湾の電力設備や送電線については,http://www.taipower.com.tw/r13.htmに説明図がある(中国語)。
今回(1999年9月)の地震は送電経路の途中の変電所を破壊し,その修復に多大な時間を要した。このため地震後の電力事情は,なかなか改善しなかった。新竹の工業団地には,台湾政府の指示で優先して電力が供給されたが,それでも電力が100%回復したのは地震発生から丸4日以上たった後である(図6 )注9)。
注9)この間,半導体メーカは,非常時を想定したバックアップ電源によって,クリーン・ルームを清浄に保っていた。このため仕掛かり中の製品の被害をある程度抑えられた。仕掛かり中のウエーハのうち廃棄した分は,台湾TSMCが約2万8000ウエーハ,台湾UMCは生産中のウエーハの10%以下だったという。