私は今年の「Mobile World Congress(MWC)」、とりわけ「Xperia PLAY」の発表を心待ちにしていた。それには理由がある。私は2008年8月に「ソニーは“PSP Phone”、シャープは“Zaurus Phone”を出さないか?」というタイトルのコラムをTech-On!に執筆していた。そこでは、その年に日本で発売された「iPhone 3G」を受けてこう書いている。「私はiPhone単体ではなく、アップルのビジネスモデルに注目しており、Androidについても同じ見方をしている」。また、「ネット上のサービスやコンテンツがリッチになり、あらゆるところから高速常時接続でネットにアクセスできる時代がそこまで来ている。このチャンスをつかむためのインフラ整備と考えると、iPhoneとAndroidの目指すところは明快である」とも書いた。

 それからわずか2年半であるが、その間のモバイルデバイスやモバイル環境の発展には目を見張るものがあり、今回のMWCで、その目指すところを目にすることができるのではないかという期待を持っていたのだ。残念ながら今年のMWCにはシャープの参加はないが、私が求めていた答のひとつをやっとSony Ericsson Mobile Communications社が提示してくれた。

 誰もが同様に感じたと思うが、私はXperia PLAYをぱっと見て、この形以外にはないと感じた。デザイン的には完成度が非常に高いと言えるだろう。

 私の関心事は製品単体での操作性などの完成度であり、そしてXperia PLAYを支えるエコシステムやビジネスモデルだ。残念ながらこれらは外観から推し量ることはできない。携帯電話としての機能性は先行しているXperiaからある程度想像できるが、Android上に構築されたPSPとしての操作性やパフォーマンス、そして携帯電話とどのように機能を融合させている点などが早く明らかになって欲しいと思っている。

 そして、もうひとつの私の最大の関心事であるXperia PLAY のエコシステムについては、これを支えるAndroid端末向けゲーム提供サービス「PlayStation Suite」がXperia PLAYのに先立って発表されている。ソニーはこれを用いてPSPの世界を、アップルのiPhoneに比べて管理が比較的緩やかな環境であるAndroidの世界でどのようにデザインしていくのだろうか。

 携帯電話に単にゲーム機能を載せただけのものは、中国の山寨携帯(コピー品、偽物の意)にさえ存在する。ソニーやアップルのデバイスがそれらと明確に一線を画しているのが、エコシステムだ。それはユーザーやゲーム開発者までを巻き込んだ、PSPを中心としたひとつの社会・文化圏を形成していくだろう。昔、ウォークマンがポータブルオーディオという新しい文化を築いたように、そしてiPod TouchやiPhoneが同様のことを成し遂げたように。

 私はXperia PLAYが何を成し遂げようとしているのかを注視している。これからの製品開発は、単に製品を開発するのではなく、その製品を通した新しい用途を開発することにシフトしていくからだ。ソニーを研究し尽くしたアップルを、今回ソニーは研究し尽くしたように思える。その上で、ソニーが目指すところが具体的に搭載されたもののひとつがSony EricssonのXperia PLAYであり、そのエコシステムだと思うのだ。次にアップルがこれを受けて何を出してくるか、非常に楽しみな一幕が切って落とされた。Androidの世界で、Xperia PLAYがどのように他の製品と差別化し際立つことができるのか、これからに注目していきたい。

生島大嗣
アイキットソリューションズ代表
大手電機メーカーで映像機器、液晶表示装置などの研究開発、情報システムに関する企画や開発に取り組み、様々な経験を積んだ後、独立。「成長を目指す企業を応援する」を軸に、グローバル企業から中小・ベンチャー企業まで、成長意欲のある企業にイノベーティブな成長戦略を中心としたコンサルティングを行っている。多数のクライアント企業の新事業創出/新製品企画・開発等の指導やプロジェクトに関わる一方、公的機関等のアドバイザ、コーディネータ、大学講師等を歴任。MBA的な視点ではなく、工学出身の独自視点での分かりやすい言葉で気付きを促す指導に定評がある。経営・技術戦略に関するコンサルティングとともに、講演・セミナー等の講師としても活躍中。