特徴的なグリップ型のスタイルを持つ三洋電機の「Xacti」は,異色のデジタル・カメラとして根強い人気を誇っている。早くから動画撮影に着目し,防水機能やフルHDへの対応でも先駆けとなった。同社のデジタル・カメラ事業は,15年前にゼロからスタートし,2007年度に売上高2140億円にまで成長した。Xactiはその登場以来,同社のブランドを支える存在である。累計出荷台数は,2008年9月時点で150万台に達する。デジタル・カメラ事業の90%をOEM品が占めるという同社の特異性が,Xactiにけた外れのユニークさをもたらした。

ビデオ・カメラ事業から撤退

 Xactiの誕生を語るには,まず1995年にさかのぼる必要がある。この年,三洋電機は1979年以来16年間にわたって手掛けてきたビデオ・カメラ事業から撤退することを決めた。この市場に挑戦し続けてきたものの,はかばかしい成果を出せなかったからである。当然,開発陣は落胆した。カンパニー内の研究センターでDVカメラの開発を指揮していた伊藤和夫も,その一人だった。伊藤は当時,次期ビデオ・カメラの本命とされるDVカメラの試作機を,苦労の末に開発したばかりだった。

 ちょうどそのころ,同じ事業部の片隅で新しい商品が静かに産声を上げていた。デジタル・カメラである。既にいくつかの先例はあったものの,海のものとも山のものとも知れない状況だった。だが,ビデオ・カメラで培った画像処理技術を流用できることなどが後押しとなり,三洋電機は1994年にデジタル・カメラの開発に着手する。その年の暮れには,試作機が完成していた。

左から三洋電機 デジタルシステムカンパニー DI事業部 DI企画部 部長の豊田秀樹氏,同社 マーケティング本部 アドバンストデザインセンター デジタルシステムデザイン部 部長の重田喜孝氏,同社 デジタルシステムカンパニ ー DI事業部 DI企画部 DI企画課 課長の塩路昌宏氏。

 開発した試作機は,「デジタル・カメラというより,スキャナーに近いシロモノだった」と,商品企画を担当した豊田秀樹(現・デジタルシステムカンパニー DI事業部 DI企画部 部長)は振り返る。本体をパソコンに接続すると,スキャナー(TWAIN機器)として認識された。JPEGへの変換も遅く,「シャッターを切ってからファイルができるまで,10秒もかかっていた」(豊田)。

 外形寸法も大きかった。「不測の事態に備えるために,筐体内に余分なスペースを設けていた」と,デザイン担当の重田喜孝(現・マーケティング本部 アドバンストデザインセンター デジタルシステムデザイン部 部長)は明かす。撮影した画像データは小型のメモリ・ボードに記録する仕組みだったが,予備のためにPCMCIAカードを丸ごと収納できる空間があった。

三洋電機が最初に開発したデジカメは,Epson America社向けのOEM品だった。小型のメモリ・ ボードで撮影データを記録する。

 実験的な色合いが濃く,商品化が危ぶまれたものの,翌1995年には米Epson America, Inc.向けのOEM品として採用が決まる。商品名は「PhotoPC」。これが,意外なほど大きな注目を集めた。1996年1月に開かれた「International CES」では,「あのBill Gates氏が2度も見に来てくれた」(豊田)と言う。当時,パソコンに画像を直接入力できる機器は珍しかったからだ。PhotoPCはその年のCESで Gatesが選ぶデジタル・プロダクトのベスト3に入っている。