Samsung Electronics社が今後,電子ペーパー市場でどのような一手を仕掛けてくるのか—。今,業界関係者の大きな注目がこの点に集まっている。なぜなら,再編が進む電子ペーパー業界の中で,同社が“浮いた”存在になっているからだ(図A-1)。

図A-1 電子ペーパーをめぐる最新の業界構図
図A-1 電子ペーパーをめぐる最新の業界構図
現時点では,Samsung Electronics社の存在が浮いていることが一目瞭然である。

液晶パネル・メーカーを軸に再編

 電子ペーパー業界は,2009年から構図がガラリと変わり始めた。その概要を整理すると,まず2009年3月に,液晶パネル大手の台湾AU Optronics(AUO)社が,電子ペーパー・メーカー第2位の米SiPix社を買収。さらに同年6月には,液晶パネル・メーカーのPrime View International(PVI)社が電子ペーパー最大手のE Ink社を買収すると発表し,同年12月に正式に子会社化した。いずれも,液晶パネル・メーカーが電子ペーパー・メーカーを取り込んだ格好だ。

 続いて2010年1月に,PVI社と同社の子会社である液晶パネル・メーカーの韓国Hydis Technology社,そして液晶パネル大手のLG Display社の3社が業務提携した。これにより,E Ink社を傘下に持つPVI社と提携したLG Display社は,E Ink社の電子ペーパーの安定的な供給を受けられることになった。

 最近では2010年5月に,液晶パネル大手の台湾Chimei Innolux(CMI)社の関連会社であるChi lin Technology社がE Ink社と業務提携した。Chi lin Technology社は,E Ink社から産業用途向け電子ペーパーの供給を受けることになる。

独自路線を進むのか

 一連の業界再編の結果,ほとんどの大手液晶パネル・メーカーは,E Ink社あるいはSiPix社と何らかのつながりを持つことになった。しかし,液晶パネル最大手であるSamsung Electronics社に限っては,その構図から一切外れているのである(図A-1)。

 では今後,電子ペーパーに関してSamsung Electronics社は何を仕掛けてくるのか。考え得るシナリオは,大きく三つある。(1)E Ink社から電子ペーパーの安定的な供給を受けられるように提携,(2)E Ink社(PVI社)や,他の電子ペーパー・メーカーの買収,(3)独自開発の電子ペーパー技術を量産,である。

 (1)については,現実には可能性が低いとの見方が多い。「親会社であるPVI社が,Samsung Electronics社への電子ペーパー供給を認めるメリットを考えにくい」(ある調査会社のアナリスト)からだ。

 (2)のシナリオについては,電子ペーパー業界に詳しい関係者は「PVI社の買収ともなるとかなり大規模で,Samsung Electronics社といえどもそう簡単ではない。例えばMEMS方式の電子ペーパーを開発する米Qualcomm MEMS Technologies(QMT)社などの買収であれば十分考えられるだろう」と指摘する。

 (3)のシナリオは,十分に考えられる。実際,Samsung Electronics社は,SID 2010で高分子分散液晶型の電子ペーパーを発表したり,2009年10月に開催された「FPD International 2009」ではコレステリック液晶型とみられる電子ペーパーを披露したりするなど,独自の電子ペーパー技術の開発を進めている。どんなシナリオを選択するにせよ,Samsung Electronics社がいつか見せるであろう次の一手は,電子ペーパー業界に大きな影響を与えることになりそうだ。

――終わり――