ここまでは,現時点におけるカラー電子ペーパーの評価を紹介してきた。しかし,将来に目を向ければ,前述した(a)カラーの品質や,(b)コストという課題は改善される可能性もある。世界では今,さまざまな方式の電子ペーパーの研究開発が進められており,これらの中から,カラー電子ペーパーに対する評価を覆す技術が登場するかもしれない。例えばリコーは,カラーの品質を大幅に改善するためカラー・フィルタを用いず,色の3原色である「C(シアン),M(マゼンタ),Y(黄色)」の発色材料を用いてカラー化する電子ペーパーを開発中だ(図9)。「カラー・フィルタ方式の電子ペーパーと比較して,5~10倍の色再現範囲が見込める」(同社)という。2014年ごろの実用化を目指すとしている。

図9 CMYでカラー化
図9 CMYでカラー化
リコーが開発した電子ペーパーで,CMYの各色を表示させた様子(a)。単一のセルの内部に,CMY各色用の粒子を配置する構造を採る(b)。電流を流すことで,各色用の粒子の着色状態を制御する。(c)は,粒子の構造を示した。(図:リコーの資料を基に本誌が作成)

 この電子ペーパーは,電流を流すことで,透明な状態と発色した状態を変化させることができる「エレクトロクロミック材料」を用いる。同様の材料を利用した電子ペーパーは物質・材料研究機構(NIMS)なども研究開発を進めている(図10)。このほか,CMY方式によるカラー電子ペーパーの開発はオランダPhilips Researchも進めている(図11)。Philips Researchの電子ペーパーはE Ink社と同じく電気泳動方式の電子ペーパーだが,泳動させる粒子自体をCMYに着色している。

図10 エレクトロクロミック方式の電子ペーパー
図10 エレクトロクロミック方式の電子ペーパー
NIMSが開発した,エレクトロクロミック材料を利用する電子ペーパー(a)。このエレクトロクロミック材料は,有機材料と金属材料を複合させたものである(b)。
図11 粒子をCMYに着色
図11 粒子をCMYに着色
Philips Researchが開発した電子ペーパー(a)。2層重ねの構造を採る(b)。(図:Philips Researchの資料を基に本誌が作成)

 (b)のコストについては,E Ink社の強力なライバルが登場してくれば,状況は大きく変わってくる。「この1年以上,E Ink社の電子ペーパーの価格はほとんど下がっていないが,それは競合が存在しないからだ」(ある調査会社のアナリスト)。新方式の電子ペーパーが台頭し,E Ink社が市場をほぼ独占する状況が崩れれば,コストダウンも期待できる。