そして,それを実現するために,新たに開発した「超浸透型インク」を初めて採用しました。これで,きれいなカラー画像を実現できる。ただ,モノクロ印刷のクオリティには目を多少つぶらざるを得なかった。というのは,やはり黒インクについては,超浸透型ではなく元のインクのほうがきれいな文字を印刷できるのです。文字のエッジなどは,レーザ・プリンタ並みにとてもきれいになる。

 だから,この「MJ-700V2C」というプリンタを出したとき,われわれ開発陣は「カラー印刷はいいけど,モノクロ印刷がちょっとねえ…」って感じでした。「もしかしたら,あまり売れないのでは」なんて,弱気な見方もあったほどです。何か吹っ切れないものがありました。

 ただ結果的には「カラー」がウケた。あまりにも売れたので,ちょっと驚いたほどです。でも,「モノクロ印刷に関しては超浸透型インクではなく,やっぱり元のインクを使ったほうが断然いい」というのが,開発陣の一致した見解でした。だから,カラー印刷が好評だったプリンタからあえて,次の機種ではモノクロ印刷を最優先に考え,黒インクだけを元のインクに戻したのです――。

インクが混ざってしまう

 たが,この選択が結局失敗を招き,トップ・シェアの座をキヤノンに奪われることになる。黒インクを替えたことで,棒グラフなどのカラー印刷と文字などのモノクロ印刷が重なると,紙に染み込みにくい黒インクがカラー・インクと混ざってしまう。

 こうした問題があることは,開発の段階ですでに判明していた。だが,インクを改良するほど時間的な余裕はなかった。開発陣が採った対策は,黒インクと他のインクが重ならないように,インクの打ち方を変えるといったことだった。これなら,ソフトウエアの改良だけで対応できる。

 この方法は実験レベルではうまくいき,問題は解決したようにみえた。量産へのゴー・サインも出た。ところが実際に量産を始めると,製品によってバラつきが出てしまい,当初の思惑通りにうまく印刷できないものが出てきてしまった。

 さらに,これに追い討ちをかけたのが,紙送り機構の不具合である。構造を簡素化した結果,給紙時に1枚ではなく,場合によって2枚~3枚の紙を一度に取り込んでしまうことが発覚したのだ。