八木田が見つけた論文を20年ほど前に執筆した食品総合研究所 流通安全部 品質制御研究室長の細田浩は,自らの手掛けた研究が家庭の冷蔵庫に搭載されたことを妻にそれとなく話した。反応は「へー,そうなの」とそっけないものだったが,細田は満足感で満たされていた。

競争は続く

ポリフェノールの分析をする神戸大学教授の金沢和樹氏(左)と学生。金沢氏は,自然科学研究科生命科学専攻担当,農学部食品・栄養化学担当,連携創造センター副センター長を兼任する。

 冷蔵庫で栄養を増やすという新機軸を打ち出した三菱電機に対して,ライバル・メーカーたちも黙ってはいないだろう。平岡や八木田はたぶん知らないが,ビタミンCを増やす技術を研究していた細田の元には,三菱電機のライバル・メーカーの技術者も訪れていたという。三菱電機と同時期に関東の総合電機メーカーが,そして三菱電機のLED搭載冷蔵庫の発売後には関西の家電メーカーが細田を訪ねた。ポリフェノールを増やす技術を手掛ける金沢の元にも,三菱電機が製品化した後に,関西の家電メーカーが連絡してきたらしい注1)。

 成熟製品といわれる白物家電。その差異化を狙った競争は,これからも続く。今日も平岡や八木田は,次の製品開発に没頭している。

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