前編より続く

八木田と平岡が組む

 20年ほどの時が流れた2003年秋。細田の記した「野菜の収穫後における品質に及ぼす光の影響」という論文に注目する男が現れた。三菱電機 住環境研究開発センター 家電技術開発部 デバイス開発グループ 専任(当時)の八木田清である。

 八木田は,入社以来20年ほどスイッチやリレーなどの接触部品の研究を続けた後に,住環境研究開発センターの発足を機に白物家電の研究に従事するようになった。事業部から寄せられる要望に従って,掃除機の吸い込み部分,マッサージ機,介護機器,業務用生ごみ処理機,加湿器などを担当してきた。そして,2002年暮れから冷蔵庫の担当になった。

 ここで最初に手掛けたのは,1999年に実用化して話題になった「切れちゃう冷凍」の改良版「新・切れちゃう冷凍」だった。既に開発方針は決まっており,八木田は機能を確認する実験に取り組んだ。新・切れちゃう冷凍は,-1℃から-5℃までの温度降下をすばやく行うことで,細胞が壊れるのを防いでおいしさを保つのがウリである。冷凍した肉の断面を見て,細胞の壊れ具合を確かめる実験を行うのが八木田の仕事だ。

「冷蔵庫の経験が豊富で,他部署にも顔が広い人だなぁ」

 新・切れちゃう冷凍の開発を主導したのは,三菱電機 静岡製作所 冷蔵庫製造部 技術課 グループリーダー(当時)の平岡利枝である。八木田が平岡と仕事をするのは初めてだったが,神奈川県・大船にある住環境研究開発センター内で何度か顔を合わせたことはある。冷蔵庫関連の打ち合わせのために,平岡は静岡製作所からたびたび大船へ足を伸ばしていたのだ。新機能のアイデアを,各部署と調整して次々と実現していく平岡は,八木田にとって頼もしい存在だった。

何かいいアイデアないかなぁ

 新・切れちゃう冷凍の機能確認が一段落したころ,次の新製品に向けた技術開発がスタートした。2003年春以降,毎月のように開かれる平岡と八木田との打ち合わせの場では,お互いのアイデアをぶつけ合った。同年夏には,本社の白物家電事業のトップや静岡製作所の所長,冷蔵庫に関連する営業,製造,資材,経理などの幹部が集まって2004年モデルの基本コンセプトを決める大会議が開かれる。それまでに新機能の候補をまとめた。