1強5弱――。冷蔵庫業界の勢力分布は,国内シェアに基づいてこう呼ばれることがある。20%以上のシェアを持つ王者の松下電器産業を頂点に,残る主要 5メーカーが15%程度のシェアで横並びに続くからだ。5弱の中では毎年抜きつ抜かれつの変動があるものの,松下電器産業を頂点とする基本構造が変わることはなかった。
しかし今,5弱から頭ひとつ抜け出し,1強に迫る勢いを見せるメーカーが現れた。2004年の国内シェアを前年比3.4ポイント増の16.2%とした三菱電機である。同社は2005年も業界平均を上回る伸びを見せており,松下電器産業にさらに近づいたとみられる。
三菱電機のシェアを高める推進力の1つになったのが,2004年9月に発売した「光パワー野菜室」搭載機である。野菜室に設置したオレンジ色の発光ダイオード(LED)が,ブロッコリースプラウトなどの葉物野菜の光合成を促してビタミンCを増やすという。鮮度を保つという従来の冷蔵庫の役割を超えて栄養を増やすという斬新な機能を実現したことで評判になり,同社の冷蔵庫の存在を世に知らしめることになった。
次々と常識を覆す
「食品の保存には冷暗所が適していることは常識だろう。それなのにLEDを24時間発光させるだって? 一体どういうことだ」
「大丈夫です。光合成のみを促す波長を選んでいます。発芽や開花を促す波長はほとんど含んでいません。実験でも食品に悪影響を与えないことを確認済みです」
5弱から脱却する原動力になった光パワー野菜室だが,すんなりと製品への搭載が認められたわけではなかった。社内の会議では,LEDの搭載を疑問視する意見が相次いだ。しかし,陣頭指揮を執っていた静岡製作所 冷蔵庫製造部 冷蔵庫先行開発グループマネージャーの平岡利枝は,そうした意見に動じる様子は全くなかった。淡々と,疑問に対する回答を披露して見せた。反対意見が出ることは,想定済みだったからだ。
平岡にとって,常識を覆す機能を提案することは,初めてではなかった。むしろ,常に常識を覆してきたといっても過言ではない。そのたびに反対意見が続出したが,綿密な実験結果やモニター調査で集まったユーザーの声などを盾に,製品化へと突き進んできた。これまでに「切れちゃう冷凍」「熱いまんま冷凍」といった,冷蔵庫の常識からは考えられないような機能を世に出し,ユーザーの支持を得てきた。今回の光パワー野菜室も,そうした機能の1つだった。常識を逸脱することに対する周囲の反応には慣れていた。